海のなんじゃこりゃ?

其之三十二

荒海の1ドル銀貨

 冬になると強い北風が吹く日が多くなる島の桟橋では、時化のあと桟橋に行くと、ときとして意外なものが打ち上がっていることがある。

 ある年の冬のこと、桟橋をテクテク散歩していたときにふと岸壁寄りの地面を見ると、鉄筋か何かを打ち込んだような跡がいくつもあることに気がついた。

 同サイズのものが等間隔にあったので人工物かと思ったのだけど、たまたまそこだけ等間隔だっただけで、よく見るとその跡のようなものはそこらじゅうに点在しており、なかには北斗七星ならぬ北斗八星のようになっているものもあった。

 あれ?これはもしかして??

 ギンカクラゲだ。

 「銀貨」と聞いて誰もが思い浮かべるくらいのサイズのクラゲで、水面を風まかせ潮まかせで漂っているから、季節の変わり目など急に風向きが変わった日によく桟橋脇にも流れ着いてくる。

 風まかせだからいつでも観られるわけではないけれど、それほど珍しいわけでもないから、目にしたことがある方も多いことだろう。

 なんじゃこりゃ?と思っていた方は、この機会にガッテン!してください(終わっちゃったけど…)。

 これは波に打ち上げられて桟橋上で干上がりかけているものだから触手が縮んでいるけれど、生前は冒頭の写真のように触手を景気よく全方位に伸ばしている。

 風まかせ潮まかせに漂う人生だから、時として洋上や桟橋脇にけっこうな数が集まることもあるギンカクラゲながら、カツオノエボシのような強烈な毒性はないから、ヒトの脅威になることはない。

 それにしても、大時化の後の桟橋上ではミジュンやトビウオも干上がっていたりすることがあるとはいえ、彼らの場合は水面から飛び跳ねてしまったがために風に乗ってついつい…ということのはず。

 でもギンカクラゲは意地でも水面にいるわけだから、そんな彼らがたくさん桟橋上で干上がっているってことは、桟橋上が波であらわれていたわけだ。

 季節風による時化具合いがいかに強烈だったかということがよくわかる。

 もっとも、ギンカクラゲがたくさんいるときに時化になったのはたまたまだから、ギンカクラゲのこの大量日干し、なにげに千載一遇のチャンスだったのかも??