海のなんじゃこりゃ?

其之十四

ひもむし

 光を好まない生き物たちは、日中は暗がりに潜んでいる。

 小さな生き物なら、ちょっとした石の下でも「暗がり」になるから、そういうところに隠れつつ、夜の帳が降りるまでジッと息をひそめている。

 ところが変態社会に住まうダイバーたちがエビカニなどを求めて我も我もと石をひっくり返すので、彼ら誇り高き日陰者たちは非常に迷惑を蒙っている。

 そんな生き物のひとつが、冒頭の写真のクリーチャーだ。

 延ばすと全長50cmほどもあり、一見するとデジカメか何かのストラップがほどけて落っこちているかのように見えるけれど、実はムニョムニョ動いている。

 石の下でじっとしていたのに、いきなり苦手な白昼にさらけ出されてしまったのだもの、そりゃあウニョウニョ動くだろうなぁ…。

 キンチャクガニ会いたさに、期待に胸を膨らませてめくった石の下に50cmくらいあるこんなものがウニョウニョしていたら……。

 異形嫌いの現代ニッポン人なら、うらわかき女性ならずともすぐさま石を元に戻したくなることだろう。

 まぁ、それがこの生き物にとってもシアワセにつながるだろうから、じっくり観察してあげてなどとはあえて言わない。

 ところで、この紐のように見える生き物は誰だろう?

 実は見たまんまの「ヒモムシ」と呼ばれる生き物の仲間なのだった。

 ヒモムシの仲間たちは、紐形動物門というグループに含まれる生き物たちの総称だそうだ。

 ちなみに門というのは、界-門-綱-目-科-属-種と並ぶ生物分類単位の上から2番目だ。

 上から2番目というのがどれくらい大きな分類単位かというと、我々ヒトが属する脊椎動物門でいえば、ハダカハオコゼもモリアオガエルもハブもオウムもヒトもみ~んな同じ仲間になる。

 つまり、なんとなくヒルに似ているように見えても、ミミズの親戚のように見えても、扁形動物門のヒルとも、環形動物門のミミズとも、門の段階でまったく異なる生き物なのである。

 もっとも、「ヒモムシの仲間」とひと口に言っても、その範囲はとんでもなく広範囲に渡っているわけで、サザナミヤッコのことを「キンチャクダイ科の仲間というのではなく、「脊椎動物の1種」といっているようなものだからほとんど対象を絞ってはいない。

 では写真のヒモムシの仲間は何なのか。

 …と言われても、この写真を撮った当時は今のようにネット上で得られる情報など皆無に等しく、種はおろか何目何科の生き物なのかさえさっぱりわからないときたもんだ。

 ところがデジカメとネット社会の確立がダイビング業界に変態社会をも形成してくれたおかげで、どうやらこのタイプはクロスジヒモムシの近縁種であるらしいことがわかるようになっている。

 ちなみに「クロスジヒモムシ」で画像検索してみると、出てくる出てくる、ヒモムシ写真のオンパレードだ。

 恐るべし変態社会…。

 一般ダイバー向けに「ヒモムシガイドブック」なる図鑑が世に出る日も近いかもしれない。