其之二十六
日中潜っていると、主にリーフ際近辺の海底に、砂がまぶされた透明な膜状のものが、丸まった形でユラユラと揺れ動いているのをよく見かける(冒頭の写真)。
大きさは20cm前後から30cm超のものまで様々で、消化されかけのオブラートのように見えなくもない(消化されかけのオブラートなんて見たことはないけど)。
多くの方が目にしているはずにもかかわらず、その正体をご存知の方は意外に少ない。
実はこれ、ブダイ類の寝袋の残骸。
ご存知のとおりブダイ類の中には、夜中の睡眠時に、寄生虫などからの害を防ぐため(においで察知されないようにするため、という話もある)、鰓から寝袋を作り出してその中に納まるものたちがいる。
こんな感じ。
この寝袋は何度も再利用するものではもちろんなく、毎夜毎晩来る日も来る日も、彼らは寝袋を作っているのだ。
一夜限りで使い捨ての寝袋は、使用後にきっちり後始末をすべくその寝袋を食べて後片付け……するわけではなく、毎日使い捨てするからこそ、海底に寝袋の残骸が転がっている。
まったく、アンチエコにもほどがある。
この寝袋を他の生き物が食べているのを観たことはないけれど、実は何かの栄養になっていたりするのだろうか。
ちなみにこの寝袋、肉眼で観ると中身はほぼ透明なので、パッと見はただの薄い膜のように見える。
ところが実際は、柔らかく透明なゼリー状の物質が詰まっている。
ためしに使い捨てられたこの寝袋を握ってみると、おおなるほど、まるでミズクラゲをつかんでいるような感触。
ひょっとすると、お肌に優しいアンチエイジング成分が多量に含まれているかもしれない?