海のなんじゃこりゃ?

其之三十三

瑠璃の壺

 海の中には様々な生き物がいて、その生き物にもまた様々な生き物が暮らしている…

 …ということが、ダイビングを続けているうちにだんだんわかってくるようになる。

 サンゴの表面でイバラカンザシが育っているかと思えば、そのイバラカンザシ亡き後の穴を利用して暮らしているヤドカリや魚たち。

 サンゴの表面は、多種多様な生き物たちの暮らしの場なのだ。

 そういったことがだいたいわかってきたつもりでいてさえ、ときどき意味不明なモノに出会うこともある。

 冒頭の写真の青が美しい物体は、ハンドボール~バスケットボールくらいの塊状サンゴの表面で時々見られるものだ。

 とっても小さく5mmに満たないくらいで、クラシカルアイではとてもじゃないけどつぶさに観ることなど不可能ながら、なにしろ青が美しいからナリは小さくともよく目立つ。

 たいていサンゴの表面に複数が点在していて、パッと見はサンゴの模様のように見えなくもない。

 でもまさか模様ってことはないよなぁ…と海中で目にすれば多少は気になるのだけれど、あいにくつぶさに見ることができないサイズだから、その後が続かない。

 これがとんでもなくでっかかったり、サンゴからときおり飛び出てジャンプするとかだったらかなりの印象派ながら、青い色がきれい…と思ったっきりで終ってしまうことが多いので、写真にでも撮らないかぎり、大脳辺縁系に鎮座する海馬の表層に留めおくことは難しい。

 正体がわからないままだから、たまに↓これくらいたくさんいるシーンに出会うと、あらためて「なんじゃこりゃ!?」となってしまう。

 その点当店にはオタマサのような変態クリーチャー撮影愛好家がいるおかげで、まがりなりにもこのように記録は残っている。

 しかし。

 いくつか写真はあっても、この美しく青き変態クリーチャーを詳らかに紹介してくれる一般向け図鑑など日本国内にあろうはずがなく、そのためまことに長い間ナゾのままだった。

 ところが、とあるゲストからいただいた無脊椎動物の変態的蘊蓄本「海に暮らす無脊椎動物のふしぎ」(ソフトバンククリエイティブ 刊)に、長年ナゾだった美しく青き変態クリーチャーが載っていた!

 写真は1枚、解説は3行だけながら、学名、和名からオスメスの生態など、最低限必要な情報が込められている。

 まさか和名がついているとは知らなんだ……。

 ちなみにこの本は掲載されているクリーチャーたちの変態度合いが素晴らしく、これだけのためにこの1冊を買ってもいい!と思える無脊椎動物が他にもたくさん紹介されているから、自覚の有無にかかわらず、世の中の変態初心者(?)の方々にはおすすめの1冊だ。

 で、ついに正体が明かされたこのクリーチャー、その名をルリツボムシという。

 わりと有名なフジツボやエボシガイなども属している蔓脚類なのだそうだ。

 見ようによっては翅がきれいな甲虫系の昆虫に見えると思っていたら、ホントに節足動物だった。

 サンゴの表面を穿って住処としており、その穿ち方も気になるところながら(その穿ち方については詳述されていない)、もっと気になるのがフジツボやエボシガイと同じ仲間というところ。

 フジツボやエボシガイっていったら、手のようなエサ採捕装置が特徴的だけど、このルリツボムシには…?

 …と思ったら、撮った写真をよく観ると、ルリツボムシもエボシガイ化していた!

 とはいえわかって撮っているわけじゃないから、タイミングが……

 …と思ったら、ピントは合ってないけど全開状態が写ってた!

 いやはや、こりゃたしかにエボシガイの仲間だわ…。

 別の生き物ながら、横からちゃんと見たら↓こんな感じになるに違いない。

 前掲の本によると、エボシガイ化しているルリツボムシはすべてメスだそうで、オスはメスの腹部に付着して生活しているそうな。

 チョウチンアンコウやボネリムシのように、ただただ生殖のみに特化したアダムの裔的存在になっているらしい。

 メスでも相当変態的クリーチャーだというのに、その腹にくっついているだけの矮小オスっていったい……。