其之二十八
変態社会系クリーチャーといえば、大小問わず多くの場合「知る人ぞ知る」生き物たちだ。
ところがサイズはとっても小さいのに、ちょくちょく目につくおかげで、正体は不明ながらも目にしたことがあるという方がけっこう多い生き物もいる。
ボートの下でロープにつかまりながら安全停止をしている際は、流れのって眼前を通過していく様々な浮遊生物を眺める時間になることがある。
そんなとき、ときおりキラリと輝く小さな小さな生き物をご覧になったことはないだろうか。
目の錯覚かな…と一瞬思ったら、すぐにまたキラリ。
ジッと目で追ってみると、それはただ流されているのではなく、能動的に直線的な泳ぎをしているようにも見える。
さして珍しいわけではなく、ちょくちょく目にするたびにかなり気になるから正体を確かめてみたいところ。
しかし小さいうえに動きが素早く、しかも中層を流れに乗って去っていくのでなかなか撮りづらい。
そのため長年正体はナゾのままだったのだけど、ある年ついにオタマサのカメラが捉えた!
……光り輝くナゾの生き物は、脚の無いフナムシみたいなヤツだった。
画像を元に調べてみると、これはサフィリナと呼ばれているコペポーダ(橈脚類)の1種であることがわかった。
サフィリナとはサファイアを意味するラテン語で、つまり宝石の名前が学名につけられているほどに、世の中では美しく輝く生き物として随分昔から認識されているのだ。
アカデミズムの分野では大昔から知られている生物とはいえ、こんなクリーチャー、前世紀なら我々シロウトが調べるすべなどなかったかもしれない。
ところがさすがネット社会が生み出した変態社会、今や「サフィリナ」で画像検索すれば、PC画面は美しく輝く写真のオンパレードだ。
同じコペポーダ類のなかには魚にベットリくっついて生きる寄生虫がいる一方で、こうして光り輝く存在として世界中で知られているコペちゃんもいるのだなぁ…。
正体がわかってスッとしたので、安全停止中にキラキラしている姿を見かけても心穏やかに過ごせるようになった。
そんなある年の4月に、このサフィリナがやたら数多く漂っていたことがあった。
彼らにも旬の時期があるんだろうか。
数が多いからなのか、旬だからなのか、この時はどういうわけか砂底のそこかしこでも、チョコマカ動いている彼らの姿があった。
サフィリアって、泳ぐだけじゃなくて這い回りもするんだ…。
おまけに、せわしなく動き回りはしてもそこは海底のこと、ときおりジッと休んでくれるではないか。
チャンス!
その時撮ったのが冒頭の写真だ。
まさに煌めくサファイア(右側が前のはず)。
サフィリアは自分自身でも体色を変える生き物なのだけど、光を当てる角度を変えても色が変わる。
ほんの3mmほどの塵芥級クリーチャーだというのに、その輝きたるや宇宙外来生物級だ。
麗しのサフィリナ、エントリー直後やエキジット前など、お時間の許す範囲で是非お楽しみください。