海のなんじゃこりゃ?

其之五

砂茶碗

 時として生き物たちは、えもいわれぬ造形美を作り出す。

 キチンと6角形に調えられている蜂の巣、完璧にシンメトリーな現世放散虫の骨格など、あまりにも完璧すぎて、逆に人工的なものなのではないかとさえ思えるほどだ。

 近年つとに有名になった、アマミホシゾラフグの産卵床もしかり。

 どれもこれも背後にナニモノかの意思があるとしか思えないくらい。

 冒頭の写真の不思議的物体は、直径数cm~10cmくらいの大きさで、砂地で潜っているとそこかしこで見ることができる。

 知らないとついつい見過ごしてしまいがちだけど、そこらじゅうでポコポコ観られる季節もある。

 手にとってみると、わりとしっかりしていることがわかる。

 中央の輪の中に指を通して持ち上げても、まったく形が崩れないほどだ。

 見た感じは砂を固めて作ってあるとしか思えないけど、はたしてなんじゃこりゃ?

 これが実は貝の卵であると知ったときには、かなり驚いた。

 ツメタガイの仲間の卵なのだ。

 むろんこれ全体が卵なのではなく、砂を粘液で固めて造形しつつ、その砂の中にまぶすように卵を産み付けてあるらしい。

 砂の中にまぶすというのはわかるにしても、なんでまたここまで美しくする必要があるのだろう…。

 この卵の主の種類まではわからないけど、ご親戚のツメタガイの仲間はだいたいこんな感じ。

 ザ・ツメタガイの卵は写真下のようなもので、何重にも巻かれておらず、周囲にヒダヒダが無い。

 その形から「砂茶碗」とも呼ばれているツメタガイの卵。冒頭の写真の卵は、さしずめヒダヒダ砂茶碗といったところだろうか。

 前述のように、ヒダヒダ砂茶碗を観る機会は何度もあるのだけれど、産卵中のシーンは目にしたことがない。

 おそらく真っ暗な夜に、ひっそり行われているのだろう。