海のなんじゃこりゃ?

其之四十

夜はジュディ・オング

 砂地のポイントで潜っている際、根やちょっとしたサイズの死サンゴ岩の陰に、アヤシゲに潜んでいる白いモジャモジャ(冒頭の写真)。

 そういうところに潜んでいる生き物に気づくようになる頃には、海中には様々な生き物がいる…ということを体験的に知るようにもなっているから、まぁこういうものもいるよね、海には…と冷静に受け止めているヒトも多いことだろう。

 でも「こういうもの」って、そもそもなんじゃこりゃ?

 海藻?それとも動物?

 ジッとしているだけにパッと見だけではわからないけれど、ちょっとした刺激を加えてみると…

 …これが動物であることがわかる。

 この動物、その名をテヅルモヅルという。

 ウニ、ナマコ、ヒトデ、そしてウミシダと同じ棘皮動物の仲間で、カラフルなものや小ぶりなものまでいろいろいるようだ。

 冒頭の写真が何テヅルモヅルなのかはわからないものの、水納島では見かける機会が最も多い。

 テヅルモヅルたちは夜行性のために、種類を問わず日中は暗がりにいることが多いのだけど、冒頭の写真のテヅルモヅルは、このように岩陰でジッとしている。

 でもこの時見えている部分は、彼らの体のほんの一部分でしかない。

 夜の帳が降りると、岩陰からズリズリと出てくる(移動速度は意外に早い)テヅルモヅルが全身を露わにすると…

 ~♪ Wind is blowing from the Aegean…

 とサビパートを歌うジュディ・オングになる。

 日中岩陰でジッとしている時は、中央の白い部分しか見えていなかったのだ。

 その様子からは想像もできないほど夜の姿は大きく、端から端まで60cmくらいはあるから、海中で観ると1mほどの巨大な扇のようですらある。

 それぞれの腕から細かく枝分かれしている羽(?)はクルクルと輪を描いている部分が多く…

 …↑これを「アラベスク文様」にたとえた大御所写真家もいらっしゃったっけ(名著「海中顔面博覧会」No.92)。

 巨大扇と化したテヅルモヅルはひとつの根に何個体もいることもあり、それぞれがジュディ・オング化していると、同じ根なのに昼間とはまったく景観が異なって見えるほど。

 ただし彼らは「光」が大嫌いだから、その様子を眺めようとライトを当てると、たちまちスルスルスル…と逃げてしまう。

 光を当てすぎないよう気をつけつつ、アラベスク模様をつぶさに観ていると、テヅルモヅルエビがいたりすることもある。

 テヅルモヅルの腕にピト…とついているこのエビは、日中テヅルモヅルが岩陰で丸まっているとき、いったいどのように暮らしているのだろうか…。