其之十五
この写真をご覧になって、
「はて、いったいこの逆さになったヒメゴンベのどこがなんじゃこりゃなの?」
そう思われた方は、まだまだ甘い。
ヒメゴンベが乗っているもの、この不思議的柱状節理状物体は、いったいなんじゃこりゃ?
岩の陰部分をふと覗いてみると、そこだけビッシリとこういう風になっていたりする。
初めてこれを見たとき、ワタシはすかさず手近なひとつを手にとってみた(良い子はマネしてはいけません)。
手触りは固い。まるで何かのカプセルのようだ。
試しに剥き剥きしてみると(良い子はマネしてはいけません)…
小さな紫色の粒々がたくさん入っていた!!
本当にカプセルだったのだ。
うすうす察していたとおり、これは何かの卵だったのである。
なんの卵か。
その疑問はすぐに解決した。
別角度から覗いてみると、今まさに産卵中だったのである。
テングガイだ。
上の写真ではちょっとわかりづらいから、別に撮ったテングガイの姿は↓こちら。
テングガイは貝殻に細かく造形的な突起が多く、装飾用として人気があるので、国際通りのお土産屋さんでは貝殻が売られていることが多い。
貝殻は美しいけれどテングガイはシェルイーターの肉食で、ときおり岩肌にピタコンッと張り付いていると思ったら、実はシャコガイを食べている最中だったりする。
そうやってたらふく貝を食べるからこそ、こんなにたくさん卵を産むことができるのだろう。
ところでこのテングガイ、今でこそめったに観られなくなったものの昔はそれほど珍しいというわけではなく、シーズン中にちょこちょここのような卵を目にする機会があった。
だからといってウジャウジャいるという貝でもない。
ところが、とある方が驚きの画像を送ってくださった。
撮影:ガキヤヒロシ氏
なんとテングガイの集団産卵シーン!!
これまで何度もテングガイの産卵シーンを見たことがあったけれど、こんなにたくさん集まってドドンと産んでいる様子なんて、見たことも聞いたこともない。
撮影者のガキヤヒロシ氏によると、ここには13匹ものテングガイが集まって産卵していたという。
これはある場所に実験設置中の魚礁で、魚礁の経過調査潜水中水深18mで撮影された写真である。
実験中の魚礁やその素材の選定にテングガイを招きよせるという目的があったはずはなく、いったいなんでここにだけ集まっているのか、今もって判然としないらしい。
恐るべしテングガイ。
シャコガイ絶滅の日は近い??
…と心配したものだったのだけど、どういうわけだかここ10年くらい(2021年現在)はテングガイに出会う機会が激減している。
もちろん、以前は当たり前のように観ることができた卵も滅多に観られない。
シャコガイをはじめエサとなる貝がいなくなったわけではないから、一方的にテングガイが減っているようなのだ。
ひょっとして…。
装飾用販売目的でゲットされているとか?
そのスジの方がマジメに(?)密漁してシノギにしているご時世のこと、テングガイに目を付けるヒトが居てもおかしくはないか…。