余禄3・おしまいもキレンジャー

 

 大阪の実家滞在最終日に、母が珍しくフレンチを食べようと申し出てきた。

 高槻の西武百貨店の中に、行きつけの(?)おフランス料理屋があるという。

 ランチとはいえ、予約もせずに大丈夫なのかと問うと、平日だからまず大丈夫!と自信をもって言う。

 というわけで摂津富田駅前から市バスに乗り(高槻市は70歳以上の方は市バス料金フリー)、JR高槻駅前へ。

 いそいそと西武百貨店に入り、6階のレストラン街を目指す。

 目当てのおフランスは「ポン・マリー」という店だという。

 朝からそういう予定だったので、胃袋は完全にそっち方面待機態勢になっていた(前日あれほど食ってさらに食べて、よく待機態勢になれるものだと我ながら呆れる…)。

 が。

 この日はなにやら団体様の貸し切りか何かで、一般客は入れない旨、入り口に案内が。

 うーむ………ワタシの「ネガティブ持っているパワー」は、どうやら遺伝であるらしい。

 事前に確認しておかなかったことをたいそう悔やむ母。

 しかし今から悔やんでいても始まらない。
 まずは次善の策を検討しなければ。

 あいにく西武百貨店のレストラン街には、そういった方面胃袋待機態勢を満足させるお店はなかった。

 仕方がないので西武は諦め、JR高槻駅と阪急高槻市駅の間にある繁華街ゾーンに行ってみることに。

 再び、井之頭五郎状態に。

 まぁそれにしても繁華街に飲食店の多いことといったら!

 驚いたことに、山陰あたりの魚どころからの直送を謳う看板まである。

 流通のチカラ、恐るべし。

 そんな繁華街を歩いていると、フランス国旗を発見。

 こういう街中のフレンチやイタリアンは、店の前に国旗を掲げていることが多いとはいえ、ゴシャゴシャした街の背景に紛れ込んで、さほど目立っているわけではない。

 にもかかわらず、それを真っ先に発見したのは母。
 いくつになっても落ち着きがない分、そういうところは目ざといのである。

 件のフレンチは花屋さんだったかなんだったかが入り口になっていて、お店はその奥にあるらしい。

 しかしあいにくの満席。

 すると残念そうにしている母を見て花屋の入り口にいたご婦人が、隣のお店も美味しいですよ、と教えてくれた。

 その隣の店とは、イタリアン。
 ピッツェリアである。

 とりあえず付近を巡ってみてもこれといった店はなさそうだったし、実のところおフランスよりはイタ飯のほうが好きな我々は、フレンチ迎撃態勢デフコン1状態をとりあえず5に戻し、対イタリアン攻撃にシフトチェンジすることにした。

 というわけで、井之頭五郎化していた3人が入ったお店はこちら。

 pizzeria VIVO。

 店頭にイタリア国旗は無い代わりに、薪が堆く積まれている。

 ここがあなた……

 大当たり!!

 ランチはコースになっていて、前菜と、パスタ、ピザ、それぞれ2種類ずつあるなかから選べるようになっている。

 いわばセコンドピアットの無いイタ飯コースといったところだろうか。

 でまた最初の前菜が秀逸だった。

 サラダや生ハム、米のサラダにカンパチのカルパッチョ、紫大根のポタージュがセットになった一皿だ。

 奇しくもここのところマサエ農園産各種野菜のポタージュ作りがブームになっている我々にとって、高槻産紫大根のポタージュはかなりの逸品。

 紫大根にかぎらず、こちらの店では地元、すなわち高槻産にこだわって野菜を使用しているようで、そういったことを料理を運ぶごとに丁寧に教えてくれるキメの細かさもステキだったけれど、とにかくなんといっても……

 ピッツァが美味い。

 ナポリ風でちょっと厚めのかなり大きな生地なのに、ペロリと平らげてしまえるマルゲリータ。

 3人それぞれ別のモノを頼んだところ、3人でシェアしながら食べたほうが3種類を楽しめるでしょうという配慮で、1品ずつ順番に出してくれるあたりも芸が細かい。

 オタマサが選んだこだわりの生パスタも、もちろん美味しかった。

 そんなコースが1000円、そこにデザートを付けると1250円。

 我々の場合、さらに生ハムとオリーブを足して、もちろんのこと食前にスプマンテ、食中にグラスワインも加算。

 ちなみにランチのドリンクはプラス350円ということだったのだけど、そのお値段のワインは白も赤もランチ用に決められたハウスワインの模様。

 ドリンクメニューには「本日おすすめ」のグラスワインもあって、いささか高価ながらカメリエーラにどんなものなのか訊いてみると、フルボディだという。

 そちらのほうが美味しそうな雰囲気があったからオーダーしてみると……

 これがことのほか美味しい。

 血の滴るような分厚い肉を無性に食べたくなるようなフルボディが大好きなワタシの超ツボ。
 調子に乗って3杯も飲んでしまった……。

 ああ、なんて銘柄だったんだろう。
 たしかカメリエーラが教えてくれたはずなのに、完全に失念してしまった。

 ある意味自ら招いた一期一会。

 店内は昼休みだからか若い勤め人の男女がいる一方で、落ち着いた雰囲気の年配のカップルの姿も。

 なんだか居心地のいいカフェのような雰囲気の店内は、一歩外に出ればそこが「そやねん」「ちゃうねん」「ほんまやねん」の大阪弁の世界だとはとても思えないほど。

 いやはや、このお店、超大アタリ。

 最後のデザートなんて、いくつも種類があって、それこそスイーツ専門のカフェのようなグレードだったものなぁ…。

 スタッフは多く、けっこうテナント料がかかりそうな店なのにお求めやすいこの価格。

 これでちゃんと利益が出てるんだろうか?

 …と、こちらが心配してしまうほど。

 でも実はこのお店、ここ高槻のVIVOを皮切りに、現在は大阪東京にそれぞれ2店舗ずつ展開している成長株イタ飯屋さんグループなのだ。

 いわばその原点ともいうべきお店VIVO、次回帰省のおりにはまた来ちゃうかも……。

 この日の夜も豪華な晩酌メニューが待っていた。

 なんだかんだいいつつ結局大阪滞在中も食べてばかり、あと数日滞在が長かったら、文字どおりの「食いだおれ」になっていたことだろう。

 翌日、すなわち2月19日火曜日。

 10日間に渡った帰省&旅行も、ようやく最終日を迎えることとなった。
 朝から雨が降るあいにくの天気は、実家を出発する頃には小止みになっていた。

 那覇行きのANA機は、伊丹空港14時発。

 空港には昼時に着いたので、空港内で昼食を摂ることにした。

 連日の酒、連日の暴食。

 ここはそろそろ、守りに入ったほうが良い。

 というわけで、最後のランチも……

 ディフェンシブキレンジャー。

 梅田の地下街名物ダイヤモンドカリーが、今や伊丹空港にも。

 カレー専門店とくれば、もちろん……

 カツカレー(※個人の嗜好です)。

 なるほど、トンカツにカレーをあらかじめかけてあるタイプか。

 食べてみると、おお、ソース由来なのか酸味が強い。

 一方オタマサが頼んだのはこちら。

 カレーパスタ。

 試しにひと口食べてみると、あれ?カツカレーの味とまったく違い、昭和テイストも香る懐かしい「洋食屋」の味。

 やっぱりカツカレーの酸味は、カツカレー専用のソース味なんだろうか。

 ともかく旅行中はすっかりカレーに不自由していた身には……といいながら、たった10日間でこれでもう4回目のカレーメニューだったりする。

 なにはともあれキレンジャー、絞めにふさわしい逸品だ。

 ただ。

 ただひとつ悔しいことが。

 ワタシはこのあと、那覇空港に到着したあと車を運転せねばならない。

 しかしオタマサはそんなのカンケーねー。

 だから……

 理不尽なり!!

 最後の最後にしてやられた感。

 もっとも、この日は那覇空港到着後、どんなに急いでも連絡船の最終便には間に合わないから、本部町内の秘密基地で一泊する予定だった。

 今宵のお供は、もちろん温泉津のお酒、開春。

 生暖かい風が吹いていたから、外ではカエルの大合唱。
 さすが亜熱帯沖縄。

 暦のうえではまだ冬だけど、この開春が、ひとあし早く春を呼んでくれたようだ。

 どちらも人生初探訪だった出雲、温泉津。

 素敵な思い出をありがとう。 

 実際に足を運ばなきゃ絶対にわからない魅力が、それぞれの土地ごとに必ずある。

 日本は広い。

 旅をすればするほど、行きたいところがどんどん増えていく。