水納島の魚たち

チョウチョウコショウダイ

全長 40cm(写真は3cmほどの幼魚)

 クネクネクネクネクネクネクネクネクネクネクネクネクネクネクネ…………

 この魚を一言で表すなら(一言じゃないけど)こうなる。

 何が楽しいのか。

 何のためなのか。

 とにかく全身エンドレスクネクネマシーンと化しているのだ。

 どうやら身を守るための術らしいのだけど、かえって目立ってしまっている。

 この魚を初めて見たのは大学2年生の秋、それも水槽の中だった。

 なにぶんモノを知らぬ学生のこと、へー、変わった模様のクマノミがいるんだなぁ…と、実に素朴に思っていた(似てるでしょ?)。

 それが実はコショウダイの仲間の幼魚であると知ったとき、そしてそれがオトナになった姿を知ったとき、今じゃなかなか味わえなくなったお魚たちの世界の不思議的オドロキを味わったものだ。

 チョウチョウコショウダイの幼魚は、もともと内湾的環境が好きなのか、水納島では若魚〜成魚はチラホラ見られるのに対し、幼魚となると出会う機会はほとんどない。

 小さな島には内湾的環境がないからだろう。

 そんな水納島でも、桟橋付近は時として内湾的環境になるらしく、他の場所じゃ見られないような得体の知れない幼魚がいることがある。

 写真のチョウチョウコショウダイのベリーヤングも、その桟橋脇にいた。

 それもうちのボートを停めている真下に。

 普段から本島やその他内湾ぽいところで潜っている方々にとってはよく見る魚なのかもしれないけれど、ワタシにとっては千載一遇のチャンスだった。

 ただちにカメラを手にしてドボンと海へ。

 が。

 クネクネクネクネクネクネクネクネクネ…………

 と、撮れない……!!

 無心で体をくねらせるその姿に半ばあきれつつも、その一心不乱さには素直に脱帽したのだった。

 当時はまだフィルムで撮っていた頃で、少なくともここ10年(2018年現在)はチビターレに出会っていない。

 途中で追記(2020年10月)

 フィルムのカメラが壊れてしまい、デジイチに移行する前の過渡期、低性能のコンデジしか手元に無かった頃に撮っていた写真の一部をフォルダの奥の奥から発見した。

 さっそく中身を見てみると、冒頭の写真のチビターレよりもやや成長している段階のチビと、2006年に会っていたことがわかった。

 目の割合からして冒頭の写真のチビターレより2周りくらい大きいと思われる。

 これくらいになるとクネクネクネ…度合いも若干ゆるめになるのか、低性能コンデジでもそれなりに撮れていた(途中追記終わり)。

 一方、成長すると40cmほどになるオトナは、水納島でもちょくちょく観られる。

 岩穴や岩陰など彼らの隠れ家になるようなところがあるリーフ際にいて、体の地色が時に金色に見えたりするので、大きさともあいまってなかなかインパクトのある魚だ。

 もちろんこの頃になると、まったくクネクネしていない。

 追記(2020年6月)

 水納島のリーフエッジの外側の水深は比較的浅く、チョウチョウコショウダイが根城にしている暗がり周辺はわりと人通り(?)が多い。

 夏休みなどの行楽日に船遊びで水納島周辺に来てそのあたりを泳ぐヒトたちのなかには心無い方々もいて、目につく魚と見るやなんでもゲットしてしまおうとするため、せっかくずっと同じ場所に居ついてくれていたチョウチョウコショウダイなのに、モリで突かれるなどして体側に大きな負傷をしてしまい、やがて姿を消してしまう、なんてこともある。

 そのため水納島で出会うチョウチョウコショウダイのオトナといえば、逃げるが勝ち的にすぐさまその場を去ってしまうものが多い。

 ところが、とあるポイントに居つき始めたチョウチョウコショウダイは、まだ若いために世間を知らないからなのか、かなうことなら近づくダイバーを追い払う勢いで自身のテリトリーを主張する。

 彼はその後もこの場所でイヤな目に遭っていないのか、チョウチョウコショウダイ歴代定点観測期間の最長不倒記録を更新している。

 今でも相変わらず同じ場所でテリトリーを主張しているので、お邪魔すると1歩は引くけど2歩は引かない気構えで対抗心を見せてくる。

 チョウチョウコショウダイ、なにげに長介クチビル。

 そんな気の強さを見せる彼だから、ホンソメワケベラにクリーニングしてもらっているときも実に堂々としている。

 この時、口元をビヨヨ〜ンとアクビ状態に弛緩させると、普段は隠れている口元の部分(写真下、矢印の先)に、コショウダイ類ならではの真っ赤な色が露わになるのだけれど……

 これがなかなか彼もさるもので、いいタイミングを与えてくれない。

 カメラを向けていなければこっちを向いてビヨヨ〜ンとするとのに、カメラを向けていると奥に向いてやるのだ。

 気を引いて焦らすコツを知っているのかもしれない…。

 この先まだまだ居てくれそうな気配だから、そのうちチャンスをもらうことにしよう。

 追記(2021年8月)

 残念ながらこのチョウチョウコショウダイは、リーフ際から姿を消してしまった。