水納島の魚たち

コッカレルラス

(キツネオハグロベラ?)

全長 15cm(写真は10cmほどのおそらくメス)

 冒頭に追記(2021年11月)

 本文中で紹介しているように、「コッカレルラス」と称されているものにはどうやら2種類いるようなのだけど、そのうちのPteragogus enneacanthusに、今年(2021年)めでたく和名がついたようだ。

 その名もキツネオハグロベラ。

 ではPteragogus cryptusはどうなるの?というモンダイは残るものの、ともかくも和名がついてしまったので、以下の本文はたちまち内容的に「古いもの」になってしまった。

 そのあたりは軽く脳内変換をお願いいたします…。

 追記終わり

 随分昔から日本の海で知られているのにいまだ和名がつけられていない、という魚は意外にまだまだいて、このコッカレルラスもそのひとつ(2021年1月現在)。

 伊豆あたりでお馴染みのオハグロベラと混同されかけていたころもあったようながら、我々が水納島に越してきた90年代にはすでに「コッカレルラス」という呼び名で通っていた。

 コッカレルだなんてヘンテコな名前…と思っていたら、コッカレルとは(若い)雄鶏の意味なのだそうな。

 つまり雄鶏ベラ。

 背ビレを立てたオスの フォルムが、若い雄鶏のトサカのようだから、ということだろうか。

 前世紀末頃には砂地のポイントの砂底によく観られたトサカの仲間の周辺に、大小数匹がまとわりついている様子をちょくちょく見かけた(記憶がある)。

 ↑これは5cmそこそこの小型の個体で、同じような場所にもう少し大きい個体もいた。

 たくさんいるというわけではないものの、ちょくちょく会えていたから個人的にはさほど珍しい感はなかったのだけど、近年は砂地のポイントで見かけるなんてことがまずないから、ひょっとすると当時はいつも同じ子たちに会っていただけかもしれない。

 現在では、ドロップオフ環境もあるような岩場のポイントに行くと、ごくたまに姿を見かけるくらいでしかない。

 コッカレルラス、なにげにレアなベラなのだ。

 ところで砂地のポイントにいた子と比べると相当体色が濃いけれど、これはおそらく生息環境の違いと思われる。

 …と思っていたところ、コッカレルラス、すなわち「オハグロベラ属の1種」と呼ばれているものには、

 Pteragogus enneacanthus

 Pteragogus cryptus

 の2種類いるらしい。

 では水納島でこれまで観ているものは、いったいどっち?

 これがまた同種の間でも体色にバリエーションがあるうえに、我々シロウトレベルで両者を見分けられる明確な差異が無いようなので、写真で判断することなど到底不可能。

 ただ、過去に撮った淡い色と濃い色の両者が別々の種類なのであれば、砂地にいた色の淡いほうが P.enneacanthus で、岩場にいた色の濃いほうがP. cryptus なのではなかろうか…と、極めて根拠の薄い推測はしている。

 ちなみに、前述のとおりどちらもまだ和名がつけられていない魚たちながら、P. cryptus が新種として記載されたのは1981年のこと。

 一方P.enneacanthus が新種記載されたのは1853年。浦賀にペリーの黒船が現れた嘉永6年のことだったりする。

 江戸の人々が上を下への大騒ぎをしていた頃に、著者であり東南アジアの魚類研究の先駆け的存在のオランダ人ピーター・ブリーカー氏(医師・魚類学者)は、約20年に渡るインドネシア赴任中に超絶的変態活動を繰り広げていたそうで、彼が記載している東アジア産の魚類は相当な数にのぼるらしい。

 こういった変態さんたちなくして、現在の魚類分類学は語れない……のだろう。

 追記(2021年7月)

 今年(2021年)4月、個人的には実に四半世紀ぶりに、砂地のポイントでコッカレルラス(暫定)に再会した。

 様々な付着生物がついている岩肌に見事に溶け込む隠蔽色ながら、いつまでもしつこくつきまとうアヤシイ者(ワタシのことです)を危険と感じたのか、サンゴの枝間に避難した。

 まだ3cmほどのチビターレで、しばらくはこうやって暮らしていけるにしろ、おそらく本来の生息環境ではないのだろう、やや戸惑い気味に暮らしている感があった。

 これはたまたま今年だけのことなのか、それとも昔日のようにまた砂地でも観られる日が来る前兆なのか。

 この先さらなる「追記」が無ければ、「たまたま」確定ってことで…。