水納島の魚たち

フィリピンスズメダイ

全長 9cm(写真は2cmほどの幼魚)

 陽気そうなイメージの名前ではあるけれど、梅雨時頃から出現し始める幼魚はオーバーハングの陰の暗いところにいることが多い。

 でも体後半の黄色が目立つから、物陰にいても目立つことは目立つ。

 ちなみに、↑この写真のようにストロボを上方から当てるとボディカラーはこういう色に写るのだけど、真横に近いところから当てると…

 同じ個体でも↑こういう色味になる。

 好みのモンダイとはいえ、お日様の光はいつも上から照っているから、上から光を当てた方が肉眼で見る色に近くなる。

 チビチビの頃は日陰者のフィリピンスズメダイは、成長するにつれ日の当たる場所でフツーに暮すようになり、オトナはリーフの上で群れるでもなく散るでもなく、わりとたくさんヒラヒラしている。

 ただしチビチビの頃は尾ビレの付け根から体のほうにまで広がっていた黄色は、成長とともにその範囲が狭まっていく。

 3〜4cmくらいの若者のうちは、このようにまだヒレに黄色が残っているし、体も青味が強い。

 しかしさらに成長すると……

 誰だあんたは?的な姿になってしまう。

 完璧にオトナになると、黄色かったはずのヒレの端はすっかりくすみ、遠目にはただ黒いスズメダイになってしまう。

 せっかく日の当たる場所に居ても、これじゃあなぁ……。

 老成したものは、このわずかな黄色の名残りすら失われてしまう。

 フィリピンの海には沖縄以上にいくらでもスズメダイ類がいて、もっとカラフルで派手なものもたくさんいるだろうに、よりによってなぜにこの将来地味確定スズメダイに「フィリピン」などという陽気な名が付いたのだろう?? 

 フィリピンスズメダイという和名は、このスズメダイの種小名philippinusに由来しているのだろう。

 となると「なぜにフィリピン?」の理由を知るには、1907年にこのスズメダイの記載論文を発表したEvermann & Seale両先生にたずねるしかない。

 とはいえとっくの昔に故人になっている彼らに問うのは不可能なので、勝手に彼らの胸のうちに分け入ってみよう。

 この両先生は、フィリピンスズメダイのほか、モンツキスズメダイやヒフキアイゴなど熱帯性の魚を同時にドドドドと発表している。

 おそらくは本人たちが東南アジアの海に採集旅行に来て、未記載種であろう魚を手当たり次第に採捕し、その後発表したのではあるまいか。

 楽しかった採集旅行、あのフィリピンの思い出を、魚の名前にとどめておこう!

 …といったことだったりして。

 < 違うと思います。