水納島の魚たち

グルクマ

全長 35cm

 昨秋(2021年)降って湧いたような…というか、噴火して湧いた軽石のために、沖縄の海がえらい騒ぎになった。

 まだ記憶に新しい…というよりも2022年5月現在でも継続中の禍いなんだけど、マスコミが飽きる前の初期には、各地の港で漁業被害の報告も相次いでいた。

 NHKBSの10分間しかない時間枠のニュースの中でさえ、

 「沖縄 軽石の影響で魚が大量死」

 なんてショッキングな項目で伝えられていたほどだから、ご存知の方も多いことだろう。

 アミモンガラを人生3回分くらいたくさん観られたことで「軽石バンザイ!」って喜んでいたというのに、いったいぜんたい大量死ってどういうこと?

 驚いて思わずニュースに見入っていたら、それは辺士名漁港内の生け簀でキープされていた、グルクマのことだった。

 ニュース原稿では、「サバの仲間」とか「現地でグルクマと呼ばれている…」などと魚種を紹介されていたグルクマ、それはそれで間違ってはいないけれど、「グルクマー」といえば方言名ながら、「グルクマ」はれっきとした標準和名なので、現地だけじゃなく日本全国津々浦々でも同じ名前で通っている、ということまでNHKBSニュースは知らなかったらしい。

 で、このグルクマは、日常的に食事の際には水面付近で群れの全員がマリネラ王国のタマネギ部隊のように口を開け、水面付近の動物プランクトンなどをダーッと口に入れていく、というとても横着なエサの摂り方をする(冒頭の写真)。

 そんな魚たちが軽石で表層を埋め尽くされた生け簀にいたら…

 そりゃ死にますわね、軽石飲み込んで。

 「軽石の影響で魚が大量死」というタイトルなら、「軽石に毒成分が?」と勘違いする方々も大勢いるであろうことを見越してのアイキャッチであることは間違いない(餌と間違えて軽石を飲み込んで…とは伝えていたけど)。

 グルクマは足が早いからかスーパーの鮮魚コーナー的にはさほど馴染みのある魚ではないものの、東南アジアではきわめて重要な食用魚のひとつだそうで、水産資源としてのネームバリューは相当高いようだ。

 グルクマが軽石で大量死というニュースは、おそらくかの地でのほうがよっぽど衝撃的に受け止められたことだろう。

 スーパーでは見かけないかわりにダイバーにはわりとお馴染みの光物で、学生の頃は本島西海岸のドロップオフポイントなど潮通しのいい壁沿いを集団で行き来するグルクマをよく目にしたものだった。

 あいにく水納島ではそれほど頻度高くグルクマたちと出会うことはないものの、ナガニザが集団で産卵祭り状態になっているときなど、多くの魚たちが卵を水中に放出しているタイミングで、リーフエッジあたりにギラギラしながら出現することがある。

 もちろん卵を食べに来ているわけだから、グルクマたちは全員タマネギ部隊化してダーッ…と通過していく。

 ただ、彼らももちろん四六時中食事をしているわけではないから、全員が口を閉じて泳いでいることもある。

 そんな彼らと遭遇しても、なまじ大口を開けた食事シーンが強烈なせいで「通常」の姿を目にしてもまったくピンと来ないかもしれない。

 Tシャツ短パン姿しか見たことがないゲストが街中でスーツを着込んでいたら、まったく誰だかわからないのと同じかも…。