全長 15cm
柄といいサイズといい、けっこう存在感があるチョウチョウウオ。
この鮮やかなオレンジの模様を誇っているかもしれない彼らとしては、「鼻黒」なんてのは実に不本意な名前だろう。
たしかに鼻のあたりは黒い。
だからといって、なにもわざわざそこに注目しなくなって……。
ミスジチョウのように狭い範囲に数多くいるわけではないけれど、さりとて岩場でも砂地のポイントのリーフ際でも出会う機会は多く、たいていペアでいるハナグロチョウ。
ただし比較的大型でそれぞれの縄張りが広いからか、こうして仲睦まじくしているペアのすぐ近くに他のペアがいるということは滅多にない。
なので不意にペア同士、もしくは1人きりで暮らしているオスがペアに出会ってしまうと、けっこう激しいバトルを繰り広げる。
けっして自分のパートナーのメスには近づけさせないぞというゆるぎない決意を漲らせつつ、横恋慕オスを排除するハナグロチョウ男子。
その勢いに気圧されたのか、横恋慕オスはスゴスゴとその場を去っていった。
ところで、サンゴのポリプを主食にしているチョウチョウウオの種類は数多く、とりわけ幼魚期は特に偏食気味、というものが多い。
つまりオトナになるとサンゴのポリプだけではなくて、付着藻類とかなんとかあり合わせのものを食うことができるのに、子供のうちは
「あたしサンゴのポリプしか食べられないしぃ〜」
というワガママさんたちなのだ。
そのワガママのせいで、サンゴ礁が壊滅してしまうと生き続けられなくなってしまうのである。
このハナグロチョウチョウウオもそのような種類で、オトナになるとふてぶてしくさえあるほどながら、幼魚の頃はサンゴにそっと寄り添って暮らしている。
写真の彼女はまだ幼く、サンゴのポリプじゃなきゃいや〜、と言っている年頃だ。
不思議なことに、ハナグロチョウの幼魚というと、出会うのはたいてい500円玉サイズより大きな子で、まだ1度も1円玉サイズほどのチビチビに出会ったことがない。
サンゴの周辺から離れることがないどころか、枝間の奥の奥でひっそりとしているのだろうか。
幸いハナグロチョウのチビたちを養える程度にサンゴは元気だから、今後のチャンスに期待しよう。
※追記(2025年11月)
昨年(2024年)の白化でリーフ際やリーフエッジ付近のサンゴが激減してしまった今年は、豆チョウたちには例年のように出会えないかも…
…と覚悟していたのだけれど、どういうわけか今夏は、ハナグロチョウのチビとの遭遇頻度がやたらと高かった。
残念ながら1円玉サイズというわけにはいかないものの、500円玉よりは小さな、せいぜい300円玉サイズ(?)のチビたちがいつもより早めに姿を現したほか、500円玉サイズも個体数が多く、時には同じサンゴに2匹いることもあったほど。
↑このチビペアは、ミカドチョウのチビチビと行動を共にしてさえいた。
ここ数年はミカドチョウチビターレとの遭遇率も各段に上昇しているんだけど、そこへもってきて今年のハナグロチョウチビターレ遭遇率は、間違いなく過去31年で最高記録に達している。
ピンで会うのもレアだった10年ほど前なら、ミカドチョウとハナグロチョウのチビターレが一緒に…なんてあり得なかったものなぁ。
昨夏の白化では本島周辺のサンゴの被害は大きかったものの、本島から離れれば離れるほど、本島でもやんばるのように都会エリアから離れれば離れるほどサンゴの被害は小さく、聞くところによると座間味あたりではほとんどのサンゴが死を免れたらしい。
であれば水納島へのチビチビ供給源が断たれたわけではないから、極チビ浮遊生活期間に水納島まで流れ着くチビたちの数は例年どおりだったのだろう。
ところがリーフ際の健全なサンゴが激減した分、チビたちが暮らせるほどに元気なサンゴが限られているために遭遇率が高くなっている…ということなのかもしれない。
理由はともかく、誰も注目しない空前のハナグロチョウチビターレブーム、それも2匹仲良くサンゴの上を泳ぐ様子は、なんとも微笑ましい。
ところが、のんびり暮らしているように見えるチビターレたちの周辺には、いつも危険が潜んでいる。
サンゴに縄張りを持つルリメイシガキスズメダイなど藻食性のスズメダイのテリトリーを侵してしまったら…
…激しく追い払われるのだった。
のんびり暮らしているようで、実は片時も緊張をとくことが許されないサバイバル生活。
それでもやっぱり優雅に見えるチョウチョウウオたち、育ちが違うとはこのことか?