テンジクダイの仲間たちのなかには、群れるもの、近くに隠れ場所さえあればフツーに表に出ているもの、暗がりに単独でいるものなどいろいろいるけれど、このヒカリイシモチは、拠り所となる「何か」に縋って暮らすもの、になる。

　昔のように、砂地のポイントでもウミシダが随所にたくさんいてくれた頃は、何の変哲もない砂底にポツンとウミシダがいることもたびたびあった。

　そういったウミシダをことごとくチェックしていると、ときにはニシキフウライウオが潜んでいることもあれば、冒頭の写真のようにヒカリイシモチがいるところに出くわすこともある。

　ただしヒカリイシモチはいつもいつもこのようにシマシマのわかりやすい色あいでいてくれるわけではなく、体全体を黒くしていることもある。

　黒くなっているのは、ガンガゼの棘の間に隠れ潜んでいるものなどに多い。

　この場合それがヒカリイシモチなのかマジマクロイシモチなのか、棘の外側から覗き見るだけではワタシには区別がつかないんだけど、よくよく見てみると……

　うっすらとシマ模様が見えるから、きっとヒカリイシモチなのだろう。

　冒頭の写真のようなウミシダでは黒くなっていないことを考え合わせると、おそらく拠り所の色に合わせて体色を変えているものと思われる。

　ただし体色を変化させるのはあっという間で、石の下に隠れ潜んでいたガンガゼのトゲの間にいたヒカリイシモチは、見つけた当初は体が黒かったのに…

　…警戒モードになったからか、それともトゲに紛れるようにするためなのか、たちまちストライプ模様にチェンジした。

　昔の水納島には転石帯あたりに昼日中から姿を表に出しているガンガゼ類が多く、その当時は棘の間にたむろしているヒカリイシモチ（もしくはマジマクロイシモチ）を観る機会がとても多かった。

　ところが近年はウミシダをはじめとする棘皮動物の数がめっきり数少なくなり、ガンガゼ類も日中に外に出ていることなど滅多になくなってしまった。

　となるとヒカリイシモチたちと出会う機会も激減しており、今ではすっかりレアな魚になってしまっている。

　そんなおり、今どき珍しく砂底にポツンとウミシダがいたので、とりあえず近寄ってみた。

　ウミシダの触手の傷み具合からして、おそらくは能動的にこの場にいるわけじゃなく、どこぞのダイバーのウェットスーツにくっついてしまったものが、このあたりでふり払われたのだろう。

　その傷んでいるウミシダのそばに、小さな小さな魚が。

　1cmになるかならないかというサイズなので、ワタシのクラシカルな肉眼ではただの黒い点にしか認識できないところ、カメラのレンズはそれが魚であることをしっかり教えてくれた。

　体は傷つき、尾ビレはボロボロになっているこのチビ、おそらくヒカリイシモチの幼魚と思われる。

　とりあえずこのウミシダに縋ることで数日生き延びるチャンスを得たのであろうチビターレ。

　しかし、この先の彼の運命は目に見えている。

　昔のようにガンガゼやウミシダがそこらじゅうにいてくれれば、サバイバルのチャンスも増えたろうになぁ…。

　※追記（2025年5月）

　昨年（2024年）のことながら、岩陰に潜んではいてもわりと外から見やすいところにいるガンガゼと出会い、その枝間を観るとヒカリイシモチたちが集合していた。

　ガンガゼ自体になかなか出会えなくなっている近年は、年に1度ほど、2〜3匹がトゲの間にいるのを見かけることがある程度で、このようにたくさんの（おそらく）ヒカリイシモチたちが潜んでいる様子なんて、ヘタをしたら20年ぶりくらいかもしれない。

　狭いところに居はしてもいろんな方向に隙間が空いていたから、別アングルで覗いてみたところ…

　…一部は卵を口内保育しているっぽい。

　当たり前のようにこういうシーンが観られたその昔は、トゲの間に潜む彼らの口の中まで意識がいかなかったから、（おそらく）ヒカリイシモチたちの卵はこれまで目にしたことがない。

　となれば、タンク一本分使う覚悟で卵フガフガシーンを観てみたいところながら、あいにくこの時はそのチャンスが無く、再訪できたのは5日後のこと。

　5日経っているから、ガンガゼは居場所を変えてどこかに行っちゃったかも…と覚悟しつつ先日観た場所を訪れてみると、案の定ガンガゼは姿を消していた。

　でもほんの少し離れた暗がりにその姿が。

　ただ、前回はコンデジだけだったので、せっかくデジイチで撮り直そうと思ったのに、デジイチで覗きこめる方向から見ると、全員後ろ向き…（涙）。

　その点コンデジだと狭いところに入り込めるから、カメラだけ隙間に入れて、テキトーに動画ボタンを押したら…

　画像だとトゲの間でただジッ……としているだけのように見えるヒカリイシモチたちなのに、実はピロピロピロ…とヒレを小刻みに震わせたり、横からイチャモンをつけにきたホシメギスに蹴散らされたりしているのだなぁ（これはライトを当ててしまっているためだろうけど…）。

　ちなみにこの動画の周辺でチョロチョロと映っているのはハシナガウバウオのチビとヒバシヨウジで、彼らはこのガンガゼが居ればこそこの場にいる。

　つまりガンガゼが1匹いるだけで、ヒカリイシモチは集まるわ、ハシナガウバウオは観られるわ、ヒバシヨウジがクネクネするわと、ひと粒で３度おいしいことになるのだ。

　そんなガンガゼの数が減ってしまったら、いわゆる「多様性」が損なわれるのは当たり前のこと。

　ガンガゼひとつでこうなのだもの、30年前と比べた今の水納島の海は、相当ヤバいことになっているのかもしれない。

　そんな貴重なガンガゼが、翌日には大変なことになっていた。

　真昼間だというのに、ガンガゼが明るいところを移動しているではないか。

　本文中で触れているように、昔ならこのような明るいところに3〜4個体が集まっていることもあったけれど…

　…ガンガゼが激減している近年のリーフ際ではありえないシーンだ。

　ところで、ウニが移動するといっても、ご存知ない方にはその動きがピンと来ないかもしれない。

　ガンガゼ類はウニの仲間たちの中ではかなり移動速度が速く、ナイトダイビングなど暗闇で潜っているときに、一度ライトで存在を確認していたガンガゼが、思いがけない速さで足元まで移動していた…ということを経験された方も多いはず。

　参考までに、そんなガンガゼの歩行（？）速度を動画で…。

　移動中のガンガゼのトゲの間を観てみると…

　…シマシマカラーモードのヒカリイシモチが1匹混じっていて、よく観ると下っ腹（？）のあたりに深手を負っていたほか（だからシマシマモードになっているのかも）、ヒカリイシモチの数自体が随分減っている。

　はてさて、何があったのだろう？

　その答えは、すぐに明らかになった。

　ガンガゼのトゲをものともしないクマドリが、執拗にガンガゼに攻撃を加えていたのだ。

　ああ、せっかく久しぶりにヒカリイシモチ集団inガンガゼを観ることができたというのに、どうやらそれもこの日までのことになりそうだ。

　暗がりに潜んでいてもこのようにモンガラ類に襲われてしまうのだもの、リーフ際でのガンガゼたちが激減するのも無理はないってことか…。

　とにかくそういうわけでガンガゼのトゲの間は、ヒカリイシモチたちにとって全然セーフティハウスではなかったのだった。