水納島の魚たち

ヒオドシベラ

全長 25cm(写真は3cmほどの幼魚)

 ヒオドシベラは、現在のような変態社会人が跋扈するダイビング業界になる前から、けっこう幅広い人気があった。

 ただしそれは、もっぱら幼魚に限られる。

 いつでもヒレ全開気味にし、ヤギやウミシダなどの拠り所の周りをヒラヒラと泳いでいる姿を目にすれば、誰もがその虜になったことだろう。

 もちろんその人気はレアであるがゆえでもあるので、おいそれと出会える魚ではない。

 しかも基本的にヒオドシベラは、砂地よりは岩場を、そして岩場でもドロップオフ環境が好みのようだ。

 なので水納島近海でヒオドシベラといえば、お向かいの伊江島か、その間にある中の瀬でたまに会えるくらい。

 砂地のポイントにもごく稀に幼魚が流れついていることはあっても、けっして長きに渡って居つくことはないから、普通は観られない。

 ところが。

 2016年5月末、とある砂地のポイントの根にヒオドシベラのチビターレがいた!

 中の瀬で随分前に会ったきりだったから、海中でかなり盛り上がってしまった。

 が。

 ゲストご案内中。

 そのゲストのカメラにすべてを託すしかない。

 が。

 果敢に挑んだIKAMAMAさんではあったものの、結果は惨敗。

 一期一会の儚き出会いは、ピンボケ写真で終了か………。

 幸い3日後にカメラを携えて再訪するチャンスがあったので、さっそく現場へ急行。

 まだいるだろうかヒオドシベラチビターレ………

 ……いたッ!!

 そのサイズ、4cm弱。

 3日前とまったく同じところで、サンゴの合間から出たり入ったりしてフワフワと泳いでいた。

 ゴールデンウィーク頃に見つけていれば、さらに小さく、もっと透明感溢れるボディだったことだろう。

 まぁ水納島の砂地のポイントで出会えたことを思えば、この際ゼータクは言っていられない。

 その後2018年のお盆時期には、岩場のポイントのウミシダのそばに、さらに小さなまだ透明感があるヒオドシチビターレがいた!

 が。

 これまたゲストご案内中。

 数日後にカメラを携えて訪れるチャンスがあったから、再会を期してダッシュで駆けつけてみた。

 砂地の根でさえしばらく居続けてくれたのだから、岩場のポイントとなればきっとまだ居てくれているはず。

 が。

 Gone。

 その周辺のウミシダ20個体ほどすべてをサーチしてみたものの、どこにもその姿は無かった。

 まだ行動範囲が広がるサイズまでにはなっているとは思えないし、ウミシダの周りに群れていたナミスズメダイのチビチビたちの減り具合いからして(たった3日で!)、きっとナニモノかに食われてしまったのだろう…。

 とびきり小さなヒオドシベラチビターレは、一期一会の儚い出会いで終わってしまったのだった。

 追記(2019年12月)

 昔撮ったフィルムを探していたら、お向かいの伊江島で撮ったオトナのヒオドシベラの写真が出てきた。

 配色は幼魚の頃とほとんど変わらないとはいえ、この顔つき……

 可憐さは微塵もない……。

 ヒオドシベラにとっては不幸なことに、水納島で観られる幼魚がオトナにまで育つことはまずなさそうだから、成長しきった姿を目にして幻滅する機会はない。

 オトナはともかく幼魚は、撮る機会に恵まれたないだけで、いることはいる……というわけで

   

 「珍」マークは3つが最上級です。

 追記(2021年7月)

 今年(2021年)7月は、季節外れの(?)水納港の浚渫工事のためにゲストをとらないようにしていたこともあり、抜群のコンディションのもとでカメラを携えて潜れる日々が続いていた。

 それまでずっと強めに吹いていた南風がようやくおさまり、久しぶりに岩場のポイントを訪れた日のこと。

 ヒオドシベラのチビターレは、年に1度会えるか会えないかというくらいの遭遇率ではあるけれど、砂地のポイントに比べれば、環境的に岩場のポイントのほうが遥かに確率は高い。

 他の生物を拠り所にする習性があるので、ウミシダに寄り添っていることが多いのだ。

 砂地のポイントからはすっかりといっていいほど消え失せてしまったカラフルなウミシダたちながら、岩場のポイントにはまだ往年の風景が残っている。

 7月上旬という抜群の時期に訪れた願ってもないチャンスに、そんなウミシダたちを探ってみよう!

 でもまぁ、年に1度会えるかどうかというくらいだから、たまたま訪れたこの日この時にいきなり出会えるものでもないよなぁ…。

 と、期待半分諦観半分でウロウロしていたところ……

 いたッ!!

 3cmほどのヒオドシベラチビターレ!!

 ウミシダが4個体ほど密になっているところにいて、付近のスズメダイ類たちが彼にクリーニングを求めに来てはいたけれど、気が向かなかったのか、ヒオドシチビターレは応対する素振りを見せず、ときおりウミシダの触手をつつきながらのんびりゆったりしていた。

 過去に出会ったなかでは人生最小級というわけではないものの、ゲストをご案内中にいつも指をくわえて眺めるのみで終わっていたから、これまで撮ったことがあるなかでは人生最小級だ。

 出会いがあと一週間早ければ、もっと透明感のある激チビだったことだろう。

 それでも、いたらいいなぁ…と淡い期待を抱いていた相手がホントに居てくれたヨロコビは、毎朝の通学路で会えるか会えないか微妙なタイミングになるあの子に会えた朝のような、それだけでその日1日がバラ色になるシアワセでもあるのだった。

 名誉挽回の追記

 5年前、久しぶりに出会ったヒオドシベラのチビ、それも砂地の根というフツーはあり得ないシチュエーションで遭遇した際、ワタシはゲストをご案内中で、記録に残せるツールといえば、ゲストのIKAMAMAさんのカメラしかなかった。

 ヘタすると一期一会の儚き出会いかもしれないから、その姿を記録に留めるには、IKAMAMAさんにすべてを託すほかなかった。

 しかしその結果は………先に触れたとおり。

 惨敗を喫してしまったIKAMAMAさんである。

 あれから5年経った今年(2021年)夏、彼女に汚名返上名誉挽回のチャンスが訪れた!

 我々が久しぶりにヒオドシベラのチビターレに会った7月のこと、柳の下にもう1匹いるかもしれないヒオドシベラのチビとの再会を胸に秘めつつ、我々が出会った場所とは別のポイントで潜っていたIKAMAMAさんの眼前に、再びあの可憐な姿が。

 5年の月日を経て再び訪れた千載一遇、はたして今回は……?


写真提供:IKAMAMAさん

 撮れた!

 3cmくらいのチビターレなのに、何に寄り添うわけでもなく泳いでいたという困難なシチュエーションのもと、見事写真に収めることができたIKAMAMAさんである。