水納島の魚たち

ヒレナガカンパチ

全長 100cm

 目の上を通る黒帯や体形がそっくりなカンパチに比べ、背ビレがちょい長く伸びて見た目鎌状になっていれば、間違いなくヒレナガカンパチだ。

 不思議な名前の「カンパチ」とは、もちろん環状8号線とは関係なく、目の上を通る黒帯を上(背側)から見ると八の字に見えることから「間八」と名付けられたそうな。

 本種を含むアジ科ブリ属の魚は、英名ではアンバージャックと総称されている。

 海中で出会う彼らに琥珀色のアジという印象はないのだけれど、きっと水揚げされた時の色が琥珀色に輝いているのだろう。

 メートル級の大型回遊魚だから、水納島近辺ではそうそう出会う機会はないヒレナガカンパチ。

 しかしながら、一度だけどういうわけかそれこそメートル級の完熟成魚が鎮座していたことがあった。

 すでに死期を察して回遊をやめてしまったのだろうか、何度か同じところで出会う機会があったので、いっそのこと……

 水揚げした。

 添えてあるメジャーの数字は、ジャスト100cm、 重さにして19sの大物だ。

 いったい何人前の刺身になるだろう。

 おりしも島の行事があったので、みなさんにふるまったところ、これがあなた……

 激マズ。

 死期を悟った(といっても胃袋からは30cmくらいのアジ系の魚が出てきたけど…)ほどの大物ヒレナガカンパチは、水産資源的にはまったくイケていなかったのだった。

 ここまで大きいヒレナガカンパチに出会えたのは後にも先にもこの時限りながら、その後40cmほどの若魚が5〜6匹ほど群れている姿を目にする機会があった。

 そのうちの1匹を水揚げされた方におよばれして刺身を食べてみたところ……

 激ウマ!!

 ヒレナガカンパチも若いうちが華らしい…。

 水納島でのヒレナガカンパチとの出会いはせいぜいその程度ではあるけれど、幼魚に遭遇する機会ならたまにある。

 ダイビングを終えてポイントを離れようとボートを動かし始めたとき、波間に漂うビニール袋が見えたので回収したときのこと。

 回収したビニール袋の中を見ると、なんと10cmほどのヒレナガカンパチのチビが入っているではないか。

 小さいと背ビレの特徴が出ていないからカンパチだかヒレナガカンパチだかワタシにはわからないので、ここは勢いでヒレナガカンパチということにしておく。

 洋上のゴミを回収するという一日一善が、ヒレナガカンパチのチビとの出会いという僥倖をもたらしてくれた。

 もっとも、せっかく見つけた拠り所を奪われたヒレナガカンパチにとっては、不幸のどん底だったことだろう…。

 ここまで小さくはないけれど、別の年にはリーフ際で群れるアカヒメジに混じっているヒレナガカンパチの若魚とも出会えた。

 アカヒメジの群れに混じる光物といえばシマアジが相場だから、最初はシマアジかと思ったのだけど…

 目の上を通るラインはヒレナガカンパチの印。

 これくらいのサイズになると、拠り所にジッと居続けるのではなく、他の魚であれなんであれ、群れ泳ぐようになるのだろう。

 ではもっともっとチビターレの頃はどうしているのだろう?

 その答えは、今年(2020年)7月に用意されていた。

 季節外れの強い南風が吹いた日、島の桟橋の周りに、千切れた海草や流れ藻などが風に運ばれ、ゴシャッと集まったことがあった。

 そこにはソウシハギのチビチビが50匹くらいいたり、漂流系のモンガラのチビなどがたくさんいたほか、こういうチビも混じっていた。

 桟橋上から水面越しに無理矢理撮った、ヒレナガカンパチのチビターレ。

 黄色い体に黒帯が目立つ、2cm弱のチビチビだ。

 こんなチビターレが100cmもの巨魚になるまでの道のりには、想像を絶するサバイバル物語があるに違いない。