全長 9cm
砂地の根でわりとフツーに観られるヒトスジイシモチは、一本筋の通ったわかりやすい模様をしている。
にもかかわらず、見覚えが無い…という方のほうが圧倒的に多いに違いない。
それもそのはず、彼らヒトスジイシモチは、20mよりも深い根が好みで、しかも砂底近くに開いた暗い空隙近くにいることが多い。
そのため、根を覆うスカシテンジクダイの群れや群れ泳ぐハナダイ類などを眺めていたら、まったく目に入らないことだろう。
逆に、そういうところに潜んでいるかもしれないエビ・カニその他、マニアックなクリーチャーをサーチしている方には、わりとお馴染みだったりする。
場所によっては、多数がたむろしている。
梅雨頃から観られ始める幼魚も、似たようなところが好きらしく、根の岩陰でチョロチョロしている。
その姿はまるで、アマゾン川の支流に暮らす小型カラシン(〇〇テトラと呼ばれる魚たち)のよう。
しかし、小型カラシンたちは熱帯魚の世界ではわりと人気があるのとは対照的に、このヒトスジイシモチの幼魚見たさに目の色を変えているヒトを見ることはない…。
もっとも、オトナも子供もヒトスジイシモチはいつでも暗闇の隠れ家に逃げ込めるところにいるために、カメラを向けるとすぐに背を向ける子が多く、たとえ目を向けたとしても、お付き合いの度合いが深まる気配はまったくない。
そして、あえて日陰者人生を歩んでいる彼らだからか、冒頭の写真など、目つきはなんだか厭世観すら漂っている。
そんな彼らにだって、パッと花咲くときもある。
同じように暗がりが好きなオオシライトゴカイが、日陰者を束の間主役の座に立ててくれたのだった。
※追記(2022年5月)
本文中でも述べているように、カメラを向けるとすぐに背を向ける子が多いために、これまで長い間ヒトスジイシモチの口内保育シーンを撮るチャンスが無かったのだけど、昨年(2021年)になってようやくその機会を得た。
ただ、やはりこちらを向いたままでいてくれはしないため、この年はここまでが精一杯だった。
うーん、観てみたい、ヒトスジイシモチの卵。
再び彼らの繁殖シーズンを迎えた2022年の春に、そのチャンスは訪れた。
流れの加減がちょうど良かったからか、根の外側を向いて定位しているから、卵フガフガウォッチをしやすい状況だ。
カメラを向けたらいつものように物陰に逃げるかなと思いきや、一瞬陰に隠れたけれどすぐに出てきて同じポジションでいてくれた。
これなら5分も待てば卵フガフガチャンス到来となるだろう。
上の写真は口をほぼ閉じている状態ながら、これはほんの一瞬のことで、観ていると、ずーっと口を半開きにしてハフハフしている。
口が半開き常態でハフハフしているってことは、多くの場合卵の発生が随分進んでいて、フガフガ時の卵露出も大きくなる…はず。
待つことしばし、その瞬間が訪れた。
人生初遭遇、ヒトスジイシモチの卵フガフガ!
…のはずだったのだけど。
動きは文句ないフガフガだったのに、肝心の卵がまったく外に露出されない…。
さらにその5分後に再度チャンスが訪れたものの、2度目も同じように終了。
口内容積に比して卵の数が少なめだからなのか、卵を外に出さずとも口の中で転がすだけで、新鮮な水が行き渡るらしい。
フガフガで卵を外に出してくれないんじゃしょうがない、とりあえず常時半開きの口の中を覗かせてもらおう。
例によってアップ。
お目目キラキラタマタマ〜♪
豪快なフガフガは観ることができなかったけれど、人生初ヒトスジイシモチの卵ってところで手を打っておこう。
※参考
ヒトスジイシモチとよく似ているユカタイシモチは、尾柄部の黒点の位置の違いで見分けられるそうな。
ヒトスジイシモチのそれは、体側を走る黒帯の延長上にあるのに対し、ユカタイシモチの場合は黒帯の延長線上よりも上になる。
ひょっとすると、ヒトスジイシモチだとばかり思いこんでいる手元の写真のなかには、ユカタイシモチも混じっていたりして……とチェックしてみたところ、写真はすべてヒトスジイシモチ(と思われる位置に黒点がある子)ばかりだった。