水納島の魚たち

ホクトベラ

全長 20cm(写真は3cmくらいの幼魚)

 水納島では「珍」のニューギニアベラも含まれるホクトベラの仲間は、本来はススキベラ属の仲間ということになる。

 ところが紆余曲折を経ているのか、ススキベラ属には〇〇ススキベラと頭に形容詞がつくススキベラはいても、ザ・ススキベラはいない。

 いないのにススキベラの仲間と呼ぶのも、なんだかゼロに何を掛けてもゼロになるみたいな変な感じなので、ここではホクトベラの仲間ということにする。

 で、そのホクトベラ、〇〇ススキベラだとなんだか四の五のと説明的な名前に聞えるのに対し、ホクトベラはホクトススキベラではないところが潔く語呂がいい。

 見分けやすく語呂がよく、おまけにリーフ際の浅いところでわりとフツーに観ることができるホクトベラは、黒地に小さな白点がビッシリ散りばめられた体に、尾ビレが真っ黄色。

 普段は中層を泳ぐことはなくサンゴの近くや死サンゴ石が転がる海底付近にいて、5cm前後の若い子たちは一緒に行動していることもよくある。

 もう少し大きくなって10cmくらいになると、たいてい単独で暮らしている(周りに幼魚はいる)。

 で、90年代の半ばくらいまでのワタシは、ホクトベラといえばこういう色形の魚と確定してしまっていた。

 なのでこれらよりもやや大きめの、背ビレ後端の眼状斑が無くなりつつあるように見える↓これくらいの子がオスで……

 …それよりも小柄なものたちがメスなのだろうと思い込んでいた。

 ところが、なんとオスは↓このような色形なのだった。

 なんだこれは!?

 ……ってくらいの激変ぶり。

 V字に切れ込んでいるように見える尾ビレは模様で、尾ビレ自体の形は変わらないものの、尾ビレの真っ黄色も散りばめられた白点も、まったく痕跡がない。

 おまけにサイズも20cmくらいと随分大きいから、知らずにこのオスだけを見てもホクトベラだと気づくのは難しいかもしれない。

 それにしても、なんでこれまでこの「オス」を認識していなかったんだろう?

 それは無理もないことだった。

 なにしろこのオス、メスや幼魚の数に比べると、出会う機会は相当少ないのだ。

 1匹1匹のオスの縄張りが広すぎるからなのか、そもそもオスになるものが少ないのかはわからないけど、幼魚やメスには会おうと思えばほぼ100%会うことができるのに対し、オスはどんなに会う気満々で臨んでも、前日会った場所を再訪してさえまったく会えなかったりするほど。

 でもこんなに地味だと、居ても気づかないかも…

 …と思われるかもしれないけれど、リーフ際で出会うオスの目的はといえば、たいていの場合縄張り内のメスチェックのようだから、興奮モードっぽい動きをしている。

 そのうえこういう場合は興奮色を発しているため、ただ黒っぽい魚というわけでもない。

 興奮時に現れる顔周辺の模様は、メスには観られないベラベラした複雑な配色をしている。

 このベラベラ色と動きとサイズで、意外にけっこう存在感があるホクトベラのオス。 

 ただ、オスがこのような色味になって縄張り内にいるメスをチェックする様子はこれまで目にしたことはあるものの、彼らが産卵をするところは観たことがない。

 普段のオスはどこにいて、産卵はどういうタイミングで行われるのかということはまったく未知ながら、毎年必ず激チビはリーフエッジ付近で観られる。

 これで1cmくらいだろうか。

 1cm前後の激チビの頃は、緑〜茶系の魚糞のような色味をしていて、なおかつ魚糞がフラフラと漂っているかのように見せながら泳いでいる。

 そのため色味は地味なんだけど、たまにイソバナにまとわりついていることもあって、そういう場合は背景のおかげで際立つこともある。

 この魚糞カモフラージュチビターレから少し成長すると…

 …体も黒地になりはじめ、細かな白点が目立ってくる(別個体です)。

 サンゴの枝間をスルスルしながら着実に成長し、やがて2cmほどになると、尾ビレにうっすらと黄色味が見えてくるようになる。

 この尾ビレの黄色い範囲は、成長とともに少しずつ広がっていき、↑この時から10日後には…

 黄色がハッキリ、体もコントラストがクッキリしてくる(ほぼ間違いなく同一個体です)。

 尾ビレの黄色はどんどん広がり、その後2週間経って3cm弱くらいになると…

 オトナのメスとほとんど変わらなくなる(おそらく同一個体です)。

 上の写真の子はこれくらいになってもサンゴ群落の枝間で暮らしていたけれど、これくらいになるとなかにはもう外に出てオトナたちと同じように暮らしているものもいる。

 そして4cmを越える頃には、尾ビレ全体が黄色くなる。

 これで「ホクトベラ」の完成だ。

 サンゴの表面をつついていることが多いところからして、チビターレの頃はおそらくサンゴの粘液がらみの何かを摂っているのだろうけれど、枝間スルスル生活から抜け出すと、オトナと同じく岩肌の表面などをつつくようになるようだ。

 激チビから尾ビレキレンジャーまでの変化だって相当なものだとは思うけれど、このように変遷をたどると「なるほどね…」と納得もできる。

 しかし尾ビレキレンジャーのメスから「オス」への変化ときたら、そりゃアリはアリなんだろうけど、その「途中」を目にしたことがないだけに、とんでもなく劇的に見えてしまうのだった。