水納島の魚たち

フエヤッコダイ

全長 10cm

 チョウチョウウオの仲間はどれもこれもトロピカル光線を出しまくる。なかでもこのフエヤッコダイのそれはスーパーストロング級だ。

 海中でこの魚が泳いでいるのを目にするだけで、なんだか心ウキウキするようなシアワセなムードに誰もが包まれていく。

 その独特のフォルムもさることながら、2〜3匹で楽しげにサンゴの周りをヒラヒラと泳ぐ様子が、多くの人々が常日頃思い浮かべるトロピカルシーンに見事に合致するのだろう。

 沖縄であればどこで潜っていても当たり前に観られるこのフエヤッコダイだから、もちろん水納島にもたくさんいる。

 その長い吻はサンゴの枝間の小動物を食べるためらしく、サンゴからサンゴへヒラヒラと舞うように渡りながら、ツンツンとエサを探している。

 その姿はまさに菜の花畑のチョウチョウのようだ。

 …なのになぜ、ヤッコでタイなの?

 この長い吻はオトナなればこその特徴のようで、夏場に登場する若魚は、それほど際立って長くない。

 そういえばフエヤッコダイの場合、若い個体は目にすることはあっても、チビターレはこれまで一度も出会ったことがない。

 というか、どういう姿形をしているのかすら知らない。

 チョウチョウウオ類の各種幼魚といえば、画像検索すればすぐさま写真を拝見できそうなものなのに、ことフエヤッコダイにかぎっては、小さな頃の姿を容易に探し出せないのだ。

 若魚の頃は吻が短めということは、ひょっとしてチビターレの頃は丸っこくてフエヤッコダイとは気づけない姿形だったりして…。

 ところで、お馴染みのフエヤッコダイについて、とても興味深い観察をされている方がいらっしゃる。

 大御所水中写真家の大方洋二さんだ。

 ご自身のブログ上で述べておられるところによれば、フエヤッコダイでは3匹で行動していることが他のチョウチョウウオ類よりも頻度高く観られるという。

 ご存知のとおりチョウチョウウオ類の場合、動物プランクトン食で中層で群れを作る種類を除くほとんどのものが、いつもペアで行動している。

 フエヤッコダイでももちろんペアで仲良く泳いでいることも多いのだけど、3匹が行動を共にしていることもよくある、というわけだ。

 ミスジチョウチョウウオなど他の種類でも3匹で行動していることもあるとはいえ、言われてみれば(言われたわけじゃなくて勝手に読んだだけですが…)、フエヤッコダイ、なるほどたしかに3匹でいる率が格段に高い。

 上記リンク先のブログを拝見して以来、3匹でいるフエヤッコダイたちをかなり気にかけて観ていたところ、大御所が指摘されているように、実は4匹目もいる…ということもあった。

 ところが↑この場合、2対2ではなく、3匹が1匹を追い払う、という構図になっていた。

 つまりその場に4匹いたものの、2組のペアというわけではなく、仲良く3匹でいるところに紛れ込もうとしてきた闖入者、という図のようなのだ。

 となると、フエヤッコダイとしては3匹でいるのが本望ということなのだろうか。

 ずっとペアでいても、伴侶にもしものことがあると、繁殖には大きな痛手となってしまう。

 であれば、保険的に第1夫人、第2夫人(もしくは第1夫、第2夫)と、つねにスペア(?)を帯同しながら行動しているということなのかも。

 ただしこれまででたった一度だけ観たことがあるフエヤッコダイの産卵では、完全無欠のペアだった。

 それは6月半ばの日没後、すでに海中は真っ暗になっている時間帯でのことで、根のそばにいたペアが寄り添うように上昇しはじめたので、ライトを当てて観ていると、中層にパッと白い花を咲かせた。

 そういえばその頃には、お腹ががパンパンに膨れあがっているフエヤッコダイをよく目にする。

 このようにお腹がパンパンに膨らんでいるメスも含めたフエヤッコダイトリオは、まだ観たことがない(たぶん)。

 産卵間近の身重のメスも含めて3匹でいることがあるのだとすれば、その場合お腹が大きいのは1匹だけなのか、2匹なのかで、トリオの構図が判明するかもしれない。