水納島の魚たち

カスミヤライイシモチ

全長 12cm(写真は8cmほどの若魚)

 よく似ているものがすべてリュウキュウヤライイシモチとされていた時代が終わり、スダレヤライイシモチが別種デビューした同じころに、このカスミヤライイシモチという名も誕生した。

 とはいえ、元祖リュウキュウヤライイシモチやスダレヤライイシモチたちとはいつでも会えるのに対し、このカスミヤライイシモチにはなかなかお目にかかれないでいた。

 …というか、お目にかかってもそれがカスミヤライイシモチである、と認識できないでいただけかもしれない。

 特に、リュウキュウヤライイシモチとごっちゃになっている可能性が高い。

 そこで念のために、過去に撮ったリュウキュウヤライイシモチの写真をザッと見てみたところ…

 …区別不能の幼魚を除き、オトナの写真はすべてリュウキュウヤライイシモチだった。

 やっぱそうそういるものではないのか、カスミヤライイシモチ。

 図鑑でも、「礁池に生息」とあり、「数は少ない」とも記されている。

 となれば、水納島のボートダイビングでは、リュウキュウヤライイシモチなのかカスミヤライイシモチなのかと迷う必要はない。

 …と開き直っていた2020年11月に、これもまたリュウキュウヤライイシモチなのだろうと思いながら撮ったのが冒頭の写真。

 ところがそれから1年経ってから見直してみると、どうもこの子はカスミヤライイシモチっぽい。

 ところで、リュウキュウ、スダレ、カスミと似たものトリオのなかから、何をもってカスミヤライイシモチ認定しているのかといえば。

 カスミヤライイシモチの特徴として巷でよく取り上げられているのは、尾ビレの上下端の黒い筋。

 しかしこれは、リュウキュウ、スダレにも観られたりする(海域によっては無いこともあるみたい)。

 三者とも同じような模様だったら、それは「特徴」とは言えなくなってしまう。

 なのでそれに加えて、尾ビレ付け根付近が黒くなり、その手前に白帯があるリュウキュウヤライイシモチや、黒い部分が無いスダレヤライイシモチと見分けることができるという。

 でもなかには↓こういうものもいる。

 特徴といわれる白い帯があるのかないのか、「チャレンジ」してビデオ判定してもらうしかないくらいにビミョーな色味のものもけっこういるのだ。

 でもワタシはこのビミョーな子もまた、リュウキュウヤライイシモチであると確信している。

 いったいどこで見分けているのか。

 それは、縞模様の線の太さ。

 スダレやリュウキュウの縞模様は、地色(薄いほう)よりも縞模様(濃いほう)のほうが太い(リュウキュウ)、もしくはほぼ同じくらい(スダレ)になっている。

 一方カスミヤライイシモチは、地色のほうが幅広いのだ。

 というわけで、これは紛うかたなきカスミヤライイシモチ。

 …と、例によって思い込みで認定したはいいけれど。

 えーと…1年前にどこで撮ったんだったっけ?

 ポイント名はわかるのだけど、さすがに水深などは出ないから、前後の写真で判断するしかない。

 それによると、どうやらいつも不思議的にスダレヤライイシモチの幼魚〜若魚が集まっている根で撮ったものらしい。

 そこは他の砂地の根に比べると尋常ではなくスダレの若魚が集まっている…とこれまで思っていたのだけれど、ひょっとして集まっているものの多くはカスミヤライイシモチだったのだろうか…。

 航路を出てすぐのところだから、インリーフ由来である可能性も高い。

 ここまで特徴を踏まえることができた以上、次回訪れた際にはしっかり見極めてみることにしよう。

 追記(2022年5月)

 「次回訪れた際には…」と書いておきながら、訪れるたびに確認するのを忘れ続けていたものの、春先(2022年)になってようやく思い出したので撮ってきた。

 やはりここに集まっているもののほとんどは、カスミヤライイシモチだった。

 2年前はまだ尾ビレ付け根に黄色味が残っているものしかいなかったけれど、この時にはオトナもいた。

 それにしても、他の場所で認識したことがないくらい出会っていないのに、ここにだけこんなにたくさんカスミヤライイシモチが集まっているのはなぜなんだろう?

 図鑑によるとそもそも本来リーフ内で観られる系のテンジクダイらしいのに、ここはリーフの外、水深20mちょいのところというのも珍なのだろうか。

 拙日記コーナーのこの稿の後半部分でで触れているように、ホントはリーフ内のサンゴの枝間にいるべきものたちが、幼少のみぎりにここに流れ出てきてしまって仕方なく居ついている…ということなのかもしれない。

 追記(2025年5月)

 不思議的にそこだけでしか観られなかったカスミヤライイシモチの楽園は、その後アカジンがしばらく居座ってしまったために崩壊してしまった。

 あれほどたくさんいたカスミヤライイシモチたちは雲散し、わずかにポツポツ…と残るのみ。

 ただしその後は、他の場所でもカスミヤライイシモチが多数観られるようになった。

 虎口ならぬハタ口から脱出した子たちが暮らしの場を変えたからなのか、もともとローテーション的にカスミヤライイシモチが増えてくる流れになっていたのかはわからないけれど、場所限定ではなくなったおかげで、通りすがりにカスミヤライイシモチのイクメンパパに会えるようにもなっている。

 闇雲に近づくとすぐに岩陰に逃げてしまうけれど、緩やかな流れがあるとイクメンパパたちは体の向きを一定に保ってくれることが多いから、そっと近づけばカメラ側を向いて定位してくれる。

 この状態でしばらく待っていると…

 タマタマ〜♪

 例によっていつものごとく、タマタマアップ。

 うっすらと眼ができていることがわかる。

 カスミヤライイシモチの初タマタマを撮ることができたのは昨年(2024年)5月半ばのことで、当時は工事が中断していたおかげでリーフの上がことのほかクリアだった。

 まだ水温が上がり始めたばかりの頃だけに、この一望サンゴだらけのリーフ上が、まさかあのような強烈な白化禍に見舞われるなどとは夢にも思っていなかった。

 イシモチたちの口の中を観ているくらいなら、サンゴたちをもっともっと見納めていたほうがよかったのかなぁ…。

 いやいや、今日当たり前だったことが明日もまた当たり前とは限らない無常なる世の中のこと、リーフ上のサンゴ同様カスミヤライイシモチだちだって、いつなんどき忽然と姿を消すかわかったものじゃない。

 なんであれ、観られるうちに観ておくに如くはないのである。