水納島の魚たち

キホシスズメダイ

全長 9cm

 リーフ際や浅場の砂地の根、そして岩場の斜面で群れているキホシスズメダイ。

 1匹1匹を観ればとりたてて色鮮やかというわけではないし、どこにでもいるから珍しくもなんともないけれど、とにかくリーフ際から砂地の根まで、とてつもない数で群れるので、海中の賑わいには欠かせない存在だ。

 シルエットもとっても絵になる。

 サンゴが1988年の白化によって死滅して以降はしばらく数を減らしていた彼らも、サンゴが徐々に復活してくるとともに、その数をどんどん増やし続けている。

 基本的にプランクトン食だから、「食」をサンゴに依存しているわけではない。

 ではなぜサンゴの激減で数を減らしたのか。

  それはおそらく、「住」におけるサンゴへの依存度が相当高いからだと思われる。

 特に子供の頃が顕著で、キホシスズメダイのチビターレたちは、サンゴをかっこうの隠れ家にしているのだ。

 この隠れ家の有無は、やはり彼らの生存率を大きく左右するのだろう。

 1匹に注目してみると、春先の出始めの頃のチビチビチビターレはこんな感じ。

 リーフ上でワッと群れるようになる頃には…

 シュッとしてくる。

 現在は隠れ家が豊富なおかげか、初夏のリーフ際には、このキホシスズメダイの幼魚たちが、湧きあがるごとく日増しに膨れあがっていく。

 そして夏を迎える頃のリーフ際は↓こんな感じに。

 チビチビが初夏に爆発的に増えると、砂地の根で若魚たちが爽やかな群れを作ってくれることもある。

 毎年こんなに増えるためには、オトナたちの頑張りが欠かせない。

 GW前後の浅い海では、このキホシスズメダイが狂乱状態になって群れ泳ぐ。

 そこにダイバーがいようとどうしようとお構いなしに、とにかく群れまくっている彼らは、その勢いのまま集団で産卵行動に入るのだ。

 群舞していたキホシスズメダイたちはやがて岩壁に執着するようになり、岩肌にわれもわれもとばかり押し寄せてくる。

 そんな岩肌に注目してみると…

 オスがメスを産卵床に誘っているんだか、メスが勝手に押し寄せてくるのだかわからないくらい、入れ替わり立ち替わり状態になる。

 初めて観た時はまだキホシスズメダイがこのように盛り上がるなんて知らなかったものだから、何が起こっているのかわからず狂乱ぶりに目を白黒させたものだった。

 でもこれを撮ったときはどうやら繁殖にかかわる行動らしいということをすでに知っていたので、1匹を注視してみた。

 すると……

 ちゃんと輸卵管だか輸精管だかが出ていた。

 そんな狂乱産卵の果てに爆発的に増えるキホシスズメダイたちは、残念ながらというか当然ながらというか、全部が全部オトナにまで成長できるわけではない。

 リーフ際の浅い海には、彼らを狙う捕食者が手ぐすね引いて待っているのだ。

 写真のギチベラが、キホシチビたちが群れているところを悠然と徘徊しているかと思えば、カスミアジとタッグを組んだマルクチヒメジが猛然とダッシュしたりする。

 なので盛夏を迎える頃には、初夏に観られるチビチビの湧き上がるような勢いは消え失せ、生き残った若者たちがオトナたちとともに群れ集うようになる。

 キホシスズメダイのチビチビの群れは、年によってその量がまったく違うけれど、いずれにしてもピークは6月末から7月初旬にかけて。

 間違っても冬には観られないので、「冬の沖縄もステキ♪」なんてキャッチコピーに惑わされていはいけない(ウミウシはいるけど)。

 追記(2020年4月)

 キホシスズメダイの繁殖行動には、毎年梅雨前くらいに見せる群れごと狂乱状態産卵のほかにも、群れていたオスたちがそれぞれ個室(?)の産卵床を用意してそこにメスを誘う、スズメダイ類によく観られるフツーの様式もちゃんとあるようだ。

 産卵祭りと同じ春に、個別にオスがやる気モードになっている時があるのだ。

 狂乱産卵祭りのときも岩陰に入っているときは体を黒くしているけれど、黒くなっている時間は短い。

 ところが個室用意型だと、キホシスズメダイとはとても思えないほどまっ黒くなって盛り上がっている時間が長い。

 詳しくは下記リンク先にて。

 ブラック・ペア ん?

 キホシ産卵祭りはリーフ上やリーフ際のさほど深くないところで開催されるのに、この個別やる気モードのオスたちは、砂地のわりと深い根で散見される。

 個別ラブラブ産卵とキホシ祭り産卵は、時期をずらして行なわれるのだろうか。

 それとも、この産卵様式の異なるこちらのタイプは、実はナノハナスズメダイのオトナたち……とか??