水納島の魚たち

キリアナゴ

全長 100cm(写真の個体のサイズは不明)

 オフシーズンになると時間が空くので、例によって大昔に撮ったポジフィルムの海で潜っていたところ、オタマサの写真ファイルの中から少なくともここ四半世紀の間には一度として会っていない魚を発見した(冒頭の写真)。

 アナゴのような顔をしているから、てっきり伊豆の海での撮影なのだろうと思いきや、フィルムマウントに記されていた撮影地は水納島、それも昔も今もよく訪れる砂地のポイント名が記されている。

 −6m(N)という字も書き添えてあるところをみると、どうやらナイトダイビングでのことのようで、水深的にもおそらくリーフ際の壁あたりなのだろう。

 1枚ずつマウントに入れられているポジフィルムは、マウントの余白部分にその写真のデータをいろいろ書き込めるから便利なんだけど、いかんせん整理をしているのは撮影者オタマサ。

 場所と水深とナイトであることはわかっても、撮影年月日にはまったく触れられていない(通し番号でわかるよう、別にファイルを作ってそこに番号順にデータが記されてあるのだけれど、手元にない)。

 なので写真からは類推不可能ながら、夜にリーフの外で潜っているということからして、おそらく越してきたばかりの頃のことだろうと思われる。

 当時はゲストの予約などほとんど無かったかわりに、シーズン中でも時間だけはたっぷりあったのだ。

 で、この写真のフィルムマウントには、写真を見るだけでは絶対にわからない撮影年月日は記されていない代わりに、写真を見れば調べようがある被写体の名前は書いてあって、そこには

 クロアナゴ

 とあった。

 はて……沖縄にクロアナゴなんていたっけ??

 いろいろ調べてその分布域を見てみても、けっしていないわけじゃないにしろ、亜熱帯常駐の魚ではなさそう。

 ひょっとして、そっくりだというダイナンアナゴなのかも?

 でもダイナンアナゴの分布もクロアナゴとさしてかわらない。

 では沖縄で見られるこのテの魚とは??

 あ………キリアナゴ。

 沖縄の釣り業界では名が通っているようだし、これだったら、沖縄の海で出会っても不思議はないようだ。

 もっとも、そっくりな彼らを顔写真1枚だけで同定しろなんてどだい無理な話なので、あくまでも「おそらく」というところでしかない。

 いすれにしても、日中は暗がりの奥の奥でジッと息をひそめている魚だろうから、夜限定となると、滅多なことでは会えないのだろう。

 今のところ最初で最後の出会いが(おそらく)四半世紀以上前にあったというのに、撮影者本人はすっかり忘れていたから、危うくこのままポジフィルムの海の深淵に沈んだままになるところだった。

 ポジフィルムの海、とりわけオタマサ海溝には、まだまだ数多くの珍魚怪魚が眠っているかもしれない……。