水納島の魚たち

コガネアジ

全長 40cm

 パッと見や顔つきなどはホシカイワリそっくりで、遠目にはすぐにはどっちだかわからないこともあるコガネアジ。

 でもホシカイワリの稿でも触れているように、同じように点々が散らばる体表の模様はコガネアジのほうが黄色が鮮やかで、それがお腹のあたりにまで広がっているから、近くから見れば見間違うことはない。

 ただし彼ら自身もさほどこだわりはないのか、わりといいサイズ同士のホシカイワリとコガネアジが、仲良く2匹で泳いでいるのを観たことがある。

 水納島ではどちらもそうそう出会えない魚だから、コガネアジとしてもパートナーとして似ている他種で妥協する必要があるのかも?

 滅多に会えないコガネアジと会える場所となると、やはりエサとなるグルクンたちが群れ集っているあたりになる。

 夏の間砂地の根の周りでチビチビしていた幼魚たちが成長して若魚となり、晩秋になると場所によっては巨群を作ることもある。

 そんなご馳走が群れ泳いでいるところはコガネアジにとってホットスポットなのだろう、1匹だけながら、写真のコガネアジはこの近辺にしばらく居ついてくれていた。

 わりと大きな個体だったこともあり、実はこのときしばらくはホシカイワリだと誤解していたのだけれど、よくよく観ればまぎれもないコガネアジ。

 なるほど、水納島ではこういう雰囲気なのか。

 …とナットクしてから数年後、昨年(2019年)9月のことだった。

 この年(2020年)のコロナ禍では全国的に緊急事態宣言が出ていたこともあってヒマだったので、近年では珍しく夕刻に潜っていたときのこと。

 リーフ際に戻ってから、夕刻ならではの黄金に輝く水面をバックに神々しさ出まくりの小魚たちのシルエットを鑑賞していたところ、とんでもなく目立つ魚が眼下を行くのが見えた。

 !!

 その魚は小魚たちをゲットしつつ、リーフ際を徘徊しているようだ。

 ダッシュで逃げ去るわけではなさそうだったからしばらく追跡してみると、期待どおりに途中でターンしたその魚は、再び接近してきてくれた。

 チャンス到来!!

 はたしてその魚とは……

 なんとコガネアジの黄化個体!!

 40cmほどのオトナのコガネアジだ。

 コガネアジは黄化個体が出ることが知られているアジの仲間で、写真でもちょくちょく目にすることがある。

 ただしそれはたいていの場合魚影が濃厚な海外で撮影された写真で、コガネアジ自体の個体数も多いからこそなのだろうと思っていた。

 なのでまさか水納島で目にすることができるとは思ってもいなかったから、なにげに鳥肌級の初遭遇だ。

 これは夕刻ならではの出現なのだろうか。

 海面がキラキラ黄金色に輝いている時間帯専用の保護色……とか?

 < それはない。

 小さな写真で見ると単に黄色いだけの体に見えるけれど、写真のトーンをやや落としてよく観ると、黄色い体の表面には、ノーマルカラー同様に黄色い点々模様があることがわかる。

 同じ種類の魚だとは俄かには信じがたい色味の違いながら、この点々模様は紛れもなくコガネアジの印。

 多くの魚たちにとって、なにやら重要な意味でもあるかのように見受けられる「黄色」ではあるけれど、他のアジでこのような黄化個体がいる種類をワタシは知らない。

 黄色い点々だけで「黄金」アジだなんて言ったらJAROに訴えられるかもしれないところ、ここまでゴールデンなら誰もが納得の黄金鯵なのだった。