水納島の魚たち

クロメガネスズメダイ

全長 6cm(写真は2cm弱の幼魚)

 幼魚の頃は、メガネスズメダイに瓜二つを通り越して瓜一つなくらいそっくりなスズメダイが、このクロメガネスズメダイだ。

 並べて見比べればそのオレンジの色合いに若干の差異があるとはいえ、海中でどちらか一方をパッと見ただけでは、もはや区別不可能だ。

 その尾ビレの付け根に白いラインが有る(メガネスズメダイ)か無い(クロメガネスズメダイ)かで判別できるのだけれど、写真を見比べるならいざ知らず、クラシカルアイのために視界さえ不良な海中で、それぞれを識別するのは難しい。

 その点オトナは、幼魚に比べると見分けるのはたやすい。

 メガネスズメダイ同様子供の頃に比べれば随分地味になるものの、クロメガネスズメダイのオトナは、それなりに渋い紫色がきれいといえばきれいではある。

 彼らクロメガネスズメダイは、オトナも子供もリーフ際の転石帯ゾーン周辺で暮らしている。

 群れるわけではないものの、オスたちそれぞれの縄張りがそれほど広くないせいか、狭い範囲で普通にたくさん見ることができる。

 そのオスたちは、水温が上昇し始めると途端に活発になる。

 メスに卵を産ませるべくセッセと石の下に営巣しはじめ、準備が整うとかなり激しくメスを誘う。

 それと知らなくとも、明らかに尋常ではない動きをしているし、盛り上がっているオスは体の色を変えている。

 体の色がやたらと濃くなる一方、背中にいくつか明るい斑模様が出てくるのだ。

 こんな色になっているうえに、メスを産卵床へと呼び込むための「メス来い来い泳ぎ」をしているものだから、それで目立たないはずがない。

 だからこそメスたちも誘われ、そのオスが作った産卵床を気に入れば、めでたくゴールイン、ということになる。

 ただしこの興奮色は、ダイバーがじっくり見ようとして近寄ったりしたら、警戒してあっという間に通常モードに戻ってしまうことのほうが多い。

 彼の求愛のチャンスを邪魔してしまっては、いらざる恨みを買うことになるかもしれない。

 観察したければ、なるべくヤボなことにならないよう、そぉっとそっと近づいてあげよう。

 追記(2022年10月)

 何度も産卵を繰り返している初夏以降になると、近づいて観ようとするとすぐに誘惑行動を止めてしまうことが多いのに、やはりシーズン開幕当初だと「やる気」が全然違うのだろうか、春先だと近づくカメラなどものともせず、目の前でもハリキリまくるオスたちもいる。

 とはいえ、せっせと整備した産卵床にメスを誘うべく頑張れども、最初のオスはあえなくフラれ気分でロックンロール。

 黒メガネ子は熱に浮かされているかのようにフラフラと移動し、新たなオスのもとへ行く。

 やっかむ他のメスにちょっかいを出されつつも、オスが2匹で争奪戦を繰り広げるなど、相当なモテ期到来の黒メガネ子。

 そしてついに、

 「私、このヒトに決めました!」

 的に、ウィナーオスが拵えている産卵床にゴールイン。

 産卵時のオスのシゴトは束の間で、ここにいたる努力を思うと割が合わないような気もするけれど、一仕事終えたオスは、同じく一仕事終えたメスにちゃんとアフターケアをしていた(いささかおざなり感はある)。

 その一連の様子が↓こちら。

 こうして観てみると、婚姻色だ興奮モードだとオスの体色や行動ばかりが取り沙汰されることが多いスズメダイたちながら、産卵時の主導権は完全にメスが握っているということがよくわかるのだった。