水納島の魚たち

ミツバモチノウオ

全長 50cm

 ナポレオンことメガネモチノウオさえこの世にいなければ、「モチノウオ類の中で最大級」の座を欲しいままにしていたであろうミツバモチノウオ。

 惜しくも次点の座ながら、それでも完熟オスはかなりでっかいので、リーフエッジ付近で存在感を出している。

 ミツバというのはおそらく三つ葉で、三つ葉に見立てているのが上中下と延びる三叉の帯ビレなのか、背ビレ尻ビレの後端&尾ビレの3つのヒレなのかはわからない。

 由来はいずれにせよ、滅多に開かない腹ビレを含めた各ヒレはやけに長くエレガントで、背ビレ後端と尾ビレは情熱的な真紅に輝く。

 顔さえ見なければ、フラメンコダンサーのようですらあるミツバモチノウオ。

 初夏から秋の初めころまで活発になる繁殖期には、リーフエッジやその先の転石ゾーンを意味ありげにゆったりと行ったり来たりしている様子をよく見かける。

 ただし体が大きいわりには神経質で、よく見かけるわりにはじっくり観る機会が少ない。

 でもまれにフレンドリーな子もいて、彼が転石ゾーンを右往左往する間、ずっと一緒に泳がせてくれた。

 面白いもので、泳いでいる間だけなのに、体色の濃淡をコロコロ変える。

 特に背ビレ後端の色にご注目。

 ↑こういう色で泳いでいた子が、あっという間に……

 濃くなるのだ(同一個体です)。

 これは白っぽい海底に近いところでは淡くなり、底から離れると濃くなるのだろう…

 …と当初は思ったのだけど、他のミツバモチノウオではありえないほど右に左に広範囲をランデブーさせてくれたこの彼は、ひょっとしてワタシにライバル心を燃やしていたとか??

 アカテンモチノウオと同じ潮のタイミングで産卵する彼らなので、そういう時間帯にはオスが縄張り内のメスの気を引き始める。

 ただしアカテンモチノウオが人目を憚らずなんでも見せてくれるのとは逆に、ミツバモチノウオは慎ましいんだか奥ゆかしいんだか、とにかく彼女とのヒミツの行為をなかなか傍で見せてはくれない。

 ちなみにメスは↓こんな感じ。

 20cmちょいほどと、サイズと雰囲気がアカテンモチノウオに似ているけれど、アカテンモチノウオの体側の模様が点々なのに対し、ミツバモチノウオのそれは線。

 両者の見分け方は「点と線」なのである。 

 ダイバーがあまり潜ることがない場所のリーフエッジあたりでは、産卵を控えたメスたちが転石ゾーンに集合しており、その少し上方でオスは意味ありげにウロウロする。

 その際のオスのボディの発色の具合が、普段と比べてコントラストが強まっている。

 大事なとき用の興奮色なのだろう。

 その時集まっているメスは↓こんな感じ。

 体の色が濃いのは、メスもまた興奮モードだからなのか、たまたまなのかは不明だ。

 やがてその気になったメスが、オスとともに中層へと上昇する。

 事ここに至れば、アカテンモチノウオだったらまず間違いなく、観ている間に産卵まで達する。

 ところがミツバモチノウオの慎ましさ、「ヒトが観ているところでなんてありえないッ!」とばかりに、盛り上がりかけた両者は、いったんお開きになってしまうことがものすごく多い。

 そうやって徐々に盛り上がりながら最終的には産卵に至る…というムードの盛り上げ方をするベラ類も多いとはいえ、ミツバモチノウオの場合、絶対に「人目」を気にしているとしか思えない。

 その証拠に、いい加減こちらが根負けしてその場を離れつつ、ふと振り返ると…

 プシュッ……

 と産卵に至っているのだ。

 ミツバモチノウオは、現代日本人のほとんどが忘れてしまった慎み深さを持っているのである。

 途中追記(2022年6月)

 これまでなかなか記録に残せなかったミツバモチノウオの産卵を、今年(2022年)ようやく動画で撮ることができた。

 たとえメスが多数いても産卵はペア産卵様式なので、上昇し始めた2匹のメスが、話し合って順番を譲り合っているかのような様子が面白い。

 いつもはなかなか秘め事を見せようとしないミツバモチノウオながら、この日は多数のメスが集まってオスもそれどころではなかったのだろうか、この動画の時以外にも同じ場所で別のメスと何度か産卵・放精を惜しげもなく見せてくれた。

 途中追記終わり

 それはともかく毎シーズンごとにコンスタントに何度も産卵しているのは確実で、毎年毎年チビたちが世に出ているのは間違いない。

 ただし親と暮らしの場を分けているのか、アカテンモチノウオにしろミツバモチノウオにしろ、チビターレと出会う機会は少ない。

 どうやらインリーフの波当たりの少ない穏やかな環境を好むらしく、以前ビーチで潜っていたときにチビターレに出会ったことがある。

 4〜5cmほどのチビターレ。

 2009年に撮ったこのチビ、実は最近までずっとアカテンモチノウオのチビだとばかり思っていた。

 でもやがてこのあと成長していけば、アカテンモチノウオのメスよりはミツバモチノウオのメス模様になっていきそうな気配がプンプンしているから、きっとこれはミツバモチノウオのチビなのだ。

 これよりさらにチビターレは、かなり正体不明になってくる。

 別の年に同じくビーチで出会った2cmほどのチビチビは、ひょっとしたらアカテンモチノウオかもしれないし、ヘタをするとミツボシモチノウオかもしれないという危険性(?)を秘めているのだ。

 いずれにせよ、このテのチビターレがいるところは穏やかな環境であるうえに、親同様ほとんどのヒトに見向きもされないおかげで、のんびりシアワセに暮らしているようだ。