水納島の魚たち

カンザシスズメダイ

全長 7cm(写真は2cmほどの幼魚)

 随分長い間「モンスズメダイの別タイプ」といわれていたスズメダイ。

 モンスズメダイの幼魚に比べると美しいから、両者を区別するためにクロワッサンではこちらをモンスズメダイ・ビューティホーと勝手に呼んでいたのだけれど、このたび晴れてカンザシスズメダイという和名がつけられた。

 冒頭の写真よりももう少し幼い頃は…

 冒頭の写真から3ヶ月経つと…(同一個体です)

 モンスズメダイの幼魚は、オトナがフツーにいるわりには出会う機会は少ないものの、レアというほどではなく、岩場のポイントのサンゴのそばで目にすることが多い。

 それに対してこのビューティホーあらためカンザシチビターレは、これまで砂地の根でしか観たことがない(オトナは岩場でも観られる)。

 しかもモンスズメダイのチビに比べると遥かに少なく、たいていの場合、いたとしても砂地の根に1匹いる程度。

 1匹だけながら、やはり明るい青と黄色は群れ集う他の小魚たちに埋もれることはなく、けっこう異彩を放っている。

 ただしモンスズメダイ同様体色の鮮やかさはだんだん失われ、体の色は濃くなっていく。

 濃くはなるものの、モンスズメダイのように黒っぽくなるのではなく、より深い青になる。

 オトナはモンスズメダイ同様中層で餌を食べるようになり、本家モンスズメダイが集まっているようなところで泳いでいる。

 上がモンスズメダイで、下がカンザシスズメダイ。

 こうして見比べてみると、両者の違いはチビの頃のカラーリングだけではなく、エラ蓋付近に2本入っている黒帯の入り方など、オトナになっても違いがあることがわかる。

 この写真だけを見ると仲良さげだけれど、一人きりじゃ寂しくて仲間に入れてもらおうとしているのか、カンザシスズメダイのほうからときおりこうして近づいてくるのだ。

 でもどうやら周りのモンスズメダイたちからは異端児扱いを受けているらしく、歓迎されているようには見えなかった。

 周りに仲間がいないロンリーなカンザシスズメダイ。

 パートナーに巡り会えないまま、モンスズメダイと恋に落ちるカンザシスズメダイもいるかも…

 …と思ったものの、そういえばカンザシスズメダイがモンスズメダイのオスのように礫底に産卵床を作っているのは観たことがない。

 繁殖方法が異なれば、禁断の恋が実はずもないか…。

 では、彼らはいったいどうやってパートナーを見つけているんだろう?

 もっと南洋に行けば、彼らがウジャウジャいるんだろうか。

 もしそうなら、このビューティホーたちがわんさかいるってこと??

 それは是非観てみたい……。

 追記(2022年9月)

 本文中で触れているように、オトナの姿はちょくちょく見かけはしても、繁殖行動については未知だったのだけど、今夏(2022年)ついに、カンザシスズメダイが産卵床を整えるシーンに遭遇した。

 おお、産卵床もモンスズメダイとそっくり!

 産卵床の近くでモンスズメダイたちに混じって泳ぎつつ、産卵床に頻繁にやってきてはあれやこれやと調えるカンザシスズメダイ(おそらくオス)。

 まだ整備中らしく、尾ビレで表面を整えたり…

 産卵床上の小石をセッセと排除していた。

 産卵床を整えた後は、そこにメスを誘い、産卵に導くのが一連の流れのはず。

 ところが周りを見渡す限り、この場にカンザシスズメダイはこのオス1匹しかいない。

 メスを探し求めているのか、ウロウロしてみるものの、そこにいるのはモンスズメダイたちばかり。

 それが腹立たしいのだろうか、時々モンスズメダイに八つ当たりしているようにも見えた。

 はたしてこの産卵床が出番を迎えることはあるのだろうか?

 整備中の産卵床をよく観ると、一部はモフモフ状になっているところもある。

 これは砂がまぶされた卵のようにも見えるのだけど、では相手はいったい誰?

 ひょっとしてモンスズメダイとの禁断の恋だったりして。

 拵えた産卵床の出番があろうがなかろうが、「その時」に備え整備を怠らないカンザシスズメダイのオスなのだった。