水納島の魚たち

ネッタイミノカサゴ

全長 15cm

 初めてハナミノカサゴを目にし、衝撃を受けてからしばらくすると、実はハナミノカサゴによく似た仲間が他に何種類かいることを知る。

 その中でもネッタイミノカサゴは出会う機会が多く、体に比してつぶらな瞳、その目の上にシュッと長く伸びた皮弁、そしてヒレの先がエレガントに伸びたその姿もまた、ハナミノカサゴ同様やがておなじみの魚になる。

 ただしハナミノカサゴが時に悠然と中層を泳ぐことがあるのに対し、ネッタイミノカサゴは繁殖行動などよほどのことがないかぎり、岩肌やサンゴに寄り添っている。

 しかも撮ってくださいといわんばかりのところに居てくれることは稀で、↓このように立派なサイズのオトナが複数匹いるときも…

 実際はオーバーハングした岩肌で頭を下に向けてジッとしているから、撮りづらいこと甚だしい。

 撮りづらいだけならまだしも、彼らがジッとしているときはたいてい奥を向いているから、じっくり観ることすらおぼつかない。

 ジッとしているだけではなく、ホントに隠れていたいときは、上の写真のように体色をやや地味に変えるようだ。

 いずれにせよ日の当たる場所は嫌いらしく、オーバーハング下の岩肌にいることが多いのだけど、そういうところではオオシライトゴカイにそっと乗っていることもある。

 こりゃ絵になる!と喜んだものの……

 ……いかんせんまったく奥側を向いているため、なんだか冴えないアングルになってしまうのだった。

 心無い方はこういう場合、指示棒などで自分に都合がいい場所にネッタイミノカサゴを移動させようとすることだろう。

 が。

 のんびりたたずんでいるように見えてけっこう神経質なネッタイミノカサゴは、そうそう思いどおりにはなってくれず、逆に頑なに逃れようとする。

 幼魚ともなれば小さいだけに、手軽に操作(?)できるだろうと考えがちながら、そうはイカのお〇〇〇ん。

 その動きは素早く、むしろ手を出す前よりもどうしようもないほど奥に逃げてしまい、取り返しがつかないことになるのがオチ(恥ずかしながら経験者< 心無いヒトの1人)。

 そんな次第で、フォトジェニックポジションに居てくれる機会に恵まれないため、目にはしてもカメラを向けることがないまま過ごしているうちに、なんてことだ、出会っているわりには、ネッタイミノカサゴの写真を全然撮っていないというジジツが判明してしまった。

 そのうえ。

 お馴染みの魚のはずだったネッタイミノカサゴは、実はこれまで2種類の魚を混同していたらしいという話になり、ネッタイミノカサゴに加え、ミズヒキミノカサゴという種類が登場してしまった。

 2011年のことである。

 それがまたアカデミック変態社会のことだから、重箱の隅をつつくような差異の検証で、それを海中で一般ダイバーが区別しようだなんてそうそうそうそうできることではない(でもわかるヒトにはその違いがわかってくるらしい…)。

 せめて写真で比較すれば…という話になるのだけれど、あいにく比較するほどの枚数が無い。

 とりあえず冒頭の写真も、↓この子も、ネッタイミノカサゴでいいと思うんだけど……

 …どうなんでしょう?

 昔撮ったまだ随分若い子もネッタイミノカサゴと思うんだけど……

 …どうでしょう?

 < どうでしょうって言われても…。

 というわけなので、ひょっとするとミズヒキミノカサゴかもしれない可能性を秘めつつ、ネッタイミノカサゴということで話は進む。

 ネッタイミノカサゴには、その種としての形態上の特徴のほかにも、独特の得意ワザ(?)がある。

 彼らの体をよく観ると、かなりの高確率で寄生虫がついているのだ。

 サシグサ(センダングサ)のタネのようなものが体側にいくつもついているのがおわかりただけるだろうか?

 気持ち悪いもの見たさで1匹を拡大すると……

 おそらくイカリムシの仲間と思われるこの寄生虫が、魚の体についているのを目にする機会はわりと多い。

 その中でもネッタイミノカサゴは寄生虫の数がチャンピオン級で、まるでカメさんのエサを採るために藪に入った後のワタシのスボン状態。

 季節を問わずいつでもついているところをみると、ジッとしている時間が長いから寄生虫がつきやすいってことなのだろうか。

 寄生虫がついている魚を観るのは苦手…なんていう方がいらっしゃれば、ネッタイミノカサゴは一生目にすることができないかもしれない。

 でもムシがついていようとどうしようと、ひとたびクリクリお目目と目があえば、ムシのことなど頭からすっぽり消え去ることだろう。

 え?ムシに目が行きますか??