水納島の魚たち

オキスズメダイ

全長 4cm

 フィルムで写真を撮っていた頃のことだから、もう随分前のことになる。

 普段あまり行かないやや深いところをうろついていると、こぶし大程度の岩が転がるだけの砂底に、4〜5匹ほどたむろしている見慣れない魚を見つけた。

 アイゴの子供かな?

 あれ?

 違うかな?

 と思いながら少しずつ近寄ってみると、どう見てもスズメダイにしか見えない。

 が、図鑑で見た記憶がない。

 証拠写真程度には撮れていたので調べてみたところ、オキスズメダイという種類であることがわかった。

 オキスズメダイ。

 うーむ……聞いたことがない。

 当時の国内における2大海水魚図鑑ともいえる「日本産魚類生態大図鑑」とヤマケイの「日本の海水魚」のどちらにも載っていないのだから、当時のワタシが知らなくて当然である。

 さらにマニアックかつやたらと高価な、日本産魚類大図鑑という標本写真だらけの図鑑には、かろうじてオキスズメダイに関する記述があった。

 どれどれ……。

 「歯は1列で先端はとがる。前鰓蓋骨後縁は弱い鋸歯状。背鰭前方の鱗は眼隔域まで達する。生活場所はスジスズメダイに似る。体長10cmに達する。」

 知りたいのはそんなことじゃないんだぁッ!!

 まったくもう、分類主眼の図鑑はこれだから困る。

 仕方がないので、今に比べれば甚だわずかながらも情報があったネットで調べてみると、以下のようなことがわかった。

  1. 15〜40mの砂泥底域に群れを作る
  2. 浅い藻場や砂地に生息
  3. 沖縄諸島からインド・西太平洋熱帯海域の水深40m付近の砂場で小集団をつくり、貝殻などを隠れ家にして生活している。

 などなど。

 出展はそれぞれ別なので、述べられていることが微妙に矛盾していたり異なったりしているけれど、3番目のものがワタシの実感とほぼ同じ。

 正体も明らかになったことだし、その後キチンと撮り直そうと再訪してみると……

 Gone。

 たまたまその時、ピンポイントでそこにいただけだったのだろうか。

 それを引き当てたのだとすれば、それはそれでムフフ…と思わずほくそ笑まずにはいられないほどの強運だったのは間違いない。

 とはいえそういうところでチマチマと運を使ってしまうから、普段の生活でいろいろアンラッキーが多いのだろうなぁ…。