水納島の魚たち

オヨギベニハゼ

全長 35mm

 図鑑的な解説では、アオギハゼと同じようなところで観られる、ということになっているオヨギベニハゼは、アオギハゼ同様フツーに観られるベニハゼの仲間、ということになっている。

 実際お向かいの伊江島のドロップオフ沿いや、かつて一度だけ行ったことがあるフィリピンの海では、なるほどたしかにフツーに観られた。

 ところがどういうわけか水納島では、アオギハゼはたくさんいても、そこにオヨギベニハゼの姿が混じっているなんてことはこれまで一度も(確認したことが)ない。

 水納島にはいないといってもいいかもしれない。

 なのでワタシが水納島周辺の海でオヨギベニハゼと出会ったのはつい最近、2014年のことで、それも中の瀬の水深30m超の深い崖の裂け目だった。

 アオギハゼの群れに、同じようなフォルム&ホバリング姿勢をとりながら、オヨギベニハゼが何匹か混じっていた。

 水深ヒトケタくらいの浅い場所でも観られるアオギハゼに、水深30m超でわざわざ注目することもないから、いつもだったらスルーしていたことだろう。

 この時はアオギハゼの群れをチラ見したときに、たまたまオレンジ色のボディが見えたのだ。

 アオギハゼの群れに注目しさせすれば、オヨギベニハゼの体には目立つ模様が入っていないから、ひと目で違いがわかる。

 ただ、崖の狭い裂け目の奥にいるので、じっくり近寄って撮りたくともカメラが隙間に入っていかない。  

 なので写真はこの程度で終わってしまったものの、狭き門(?)から様子をうかがうことはできた。

 アオギハゼと同じように上を向いてホバリングしているのがノーマル姿勢のようながら…

 観ているとオヨギベニハゼたちはアオギハゼほど体の向きにそれほどこだわりはないらしく、下向き姿勢でもホバリングしていることもけっこうあった。

 また、アオギハゼのように、上向き姿勢に生き甲斐を感じているわけでも、「ノーホバリング、ノーライフ」というわけでもないようで、ときおり岩肌にチョコンとついては休憩していた。

 オヨギベニハゼというから果て無く泳ぐほどの勢いで泳いでいるのかと思ったら、他のベニハゼ類に比べれば泳ぐ傾向がある、という程度のことらしい。

 似ているようで似ていないアオギハゼとの違いは泳ぎ方やたたずまいだけではなかった。

 他のベニハゼ類のように双方向への性転換が可能なポテンシャルを生理機能に秘めつつも、アオギハゼが雌性先熟の性転換をする一夫多妻のハレムを作るのに対し、オヨギベニハゼは雄性先熟の性転換をするそうで、メスのほうがオスよりも大きいという。

 群れの中のオスメスの比率はアオギハゼと同じくらいだというから、大きなメスのほうが多いことになるオヨギベニハゼ。

 なので、オスメスの比率はアオギハゼとほぼ同じでも、そこから先の繁殖の仕方が、オヨギベニハゼではまったく真逆なのだそうだ。

 すなわち、ハレムのリーダーである1匹のオスに複数のメスが関係を持つアオギハゼに対し、オヨギベニハゼの場合は、1匹のメスが特に配下に置いているわけではない複数のオスと関係を持つという。

 いずれも群れごと捕えてきてからの水槽飼育観察による報告なので、自然下でもまったく同様なのかどうかはわからないけれど、どうやらアオギハゼとオヨギベニハゼのたたずまいの違いには、繁殖文化の違いが根底にあるということなのかもしれない。

 全部一緒だったら、交雑個体だらけになりそうだものなぁ。

 それにしても、なんで水納島のリーフ際のような浅いところで群れているアオギハゼの群れには、オヨギベニハゼが混じってくれないんだろう?

 追記(2021年12月)

 今年(2021年)7月に、水納島で初めてオヨギベニハゼに遭遇した。

 差し替えた冒頭の写真もその時撮ったもので、水深30mオーバーの崖に穿たれた小さな半洞穴にハレムを作っていた。

 いたのはうれしいものの、会うためにはやはりそこまで深いところに行かねばならないとは…。

 もっと身近にならないかなぁ?