水納島の魚たち

パンダダルマハゼ

全長 2cm

 ハゼの世界にどっぷり浸かっているヒトたち…というと、一般社会の方々には変態社会人だと思われがちだ。

 そしてそれは、実際そのとおりである。

 でもハゼのなかには一般受けする可愛さ、美しさを誇るものも多く、変態社会にお住まいの方々じゃなくとも心惹かれるかもしれない。

 パンダダルマハゼもそのひとつ。

 同じ仲間のハゼにダルマハゼがいるのだけれど、そこに「パンダ」とつくだけで、世の中の「カワイイー♪」連発系女子のハートをしっかりつかんでしまうのだ。

 おまけにその名が連想させるとおりのツートンカラー、そして丸っこい顔と、まるでぬいぐるみの様な姿を見れば、ハゼの世界にどっぷりと浸かっている変態社会人ならずとも、「カワイイ♪」連発女子ではなくとも、あまりの可愛さに目を奪われることだろう。

 ただし。

 その姿に目を奪われたくても、パンダダルマハゼたちはなかなかその姿を拝ませてはくれない。

 彼らがたいていペアで暮らしているのはハナヤサイサンゴという、1本1本の枝が太いサンゴで…

 見るからに狭そうな枝間の奥の奥をもっぱらの住処にしている(写真のサンゴにパンダダルマハゼが住んでいたわけではありません)。

 こんなに隙間が狭く、そのうえ枝の奥に潜む2cmほどの彼らを覗き見ようにも、その可愛らしい色合いとマンガのようなフォルムをバッチリ真横から見せてもらえる機会は滅多にない。

 それどころか、パンダダルマハゼがどういう姿形をしている魚か全然想像もつかないという方の場合、指差す先にいるパンダダルマハゼをご覧いただこうとしても、ちゃんと姿を捉えていただけることは滅多にない。

 やっと確認できたと思っても、細かく入り組んだ枝奥をチョコマカと縦横に逃げ隠れするものだから、撮影となると胃カメラでも使わないかぎりそうそう撮れるものでもない。

 それでも、真横からとは言わずとも、せめて全身が見えるような枝と枝の隙間を探せば、パンダダルマハゼの姿を拝むことができる。

 たとえ覗く隙間は狭くとも、チョコマカ動き回ってなかなかそこに来てくれなくても、ジッと待っていれば再び戻ってきてくれるし、場合によってはほぼ同じところに居続けてくれる。

 彼らはたいていペアで暮らしているので、枝奥の隙間の具合い次第では……

 アツアツぶりを見せてくれることもある。

 ある秋の日に覗かせてもらったペアは、枝間の奥でチョコマカと体の向きを変えはしても、それぞれがほぼ同じ場所に居続けてくれていた。

 彼らが同じ場所に執着している時は、そこで大事なモノを守っている場合が多い。

 大事なモノとはすなわち……

 パンダダルマハゼの顔の向こうで、なにやらキラキラ光るもの。

 そう……

 卵♪

 発生が進んですでに目もできている、パンダダルマハゼの卵たちだ。

 サンゴの表面を産卵床にして産み付けてある卵のケアと保護のために、ペアは同じ場所に居続けていたのである。


※この写真は別の場所で撮ったものです

 アヤシイおっさん(ワタシのことね)に覗き見され、警戒感も露わに卵を世話するパパパンダル(卵のそばに来るのはペアのうちの片一方だけだった。そっちがオスですよね?)。

 卵を守る彼の目は真剣そのものなんだけど、光が当たるとキラキラする卵が背景にあるものだから……

 パンダル卵キラメル♪

 …というようなことをしていたものだから、覗き見開始からすでに50分近く経過していた。

 あまりにもしつこく覗き続けていたからだろう、ついにパンダル君からお叱りを受けてしまった。

 「えーかげんにせいッ!」

 という声が聴こえてきそうな……。

 ま、この先当分お邪魔することはないだろうから、笑って許してパンダルパパ。