水納島の魚たち

セナキスズメダイ

全長 7cm

 セナキといっても背中で泣いてる男の美学、ではなく、背中が黄色いからセナキ。

 今の世の中にはそれこそ星の数ほど海水魚図鑑があるけれど、一昔前の図鑑では掲載されている写真の撮影地がかなり限定されており、いささか偏った記載が随分あった。

 そしてそういう図鑑でたいてい「日本では稀種」と書かれていたのが、このセナキルリスズメダイだ。

 もちろん、水納島ではそんなことは決してない。

 水深10〜20mくらいの砂地の根で普通に見られるし、中ノ瀬あたりのドロップオフの壁でもよく見られる。

 群れている、というほどではないものの集団でおり、ある程度の範囲にまとまっていることが多い。

 チビターレがまたカワイイ。

 オトナ同様の色分け模様ながら、春の爽やかさも感じられる透明感のある爽やかな色合い。

 もっとも、オトナもチビターレもルリスズメダイのようにリーフ内では観られず、リーフの外のわりと深いところに住んでいる。

 そのためなのか、海中で見る彼らのブルーは、背中の黄色とのコントラストも相まってなにやら深みがある。

 ノーテンキにトロピカルムードをまき散らしているルリスズメダイに対し、セナキルリスズメダイは世の中の酸いも甘いもかみ分けた渋さを醸し出しているのだ。

 う〜む、セナキとはまさに任侠一直線、背中で泣いているのかもしれない。

 現在もなおフツーに観られる魚でいてくれているセナキスズメダイながら、ビミョーに数が減っている気がしなくもない。

 そのうち本当に「稀種」になってしまうのだろうか…。

 追記(2022年3月)

 今年(2022年)3月初旬の、水温が20度くらいの冷たい海に潜っていると、そこかしこでセナキルリスズメダイのチビターレの姿が見えた。

 チビたちはたいていすぐに石の下や隙間などに逃げてしまうのだけど、なかにはお利口さんがいて、アクビまで見せてくれたりもする。

 その際ふと気がついた。

 今これくらい小さいチビがたくさんいるってことは、冬の間に繁殖しているってことなんだろうか?

 真冬に産卵する魚たちは他にもいるから、スズメダイ類にだって低水温時に産卵するものがいてもおかしくはない(クマノミは低水温OK)。

 似たような場所で似たように暮らす似たような魚たちは、交雑を防ぐために微妙に繁殖時期がずれているフシがある場合も見受けられるのだけど、そういえばセナキルリスズメダイのオスが興奮モードになっている姿って、見たことがないかも。

 そもそもルリスズメダイの仲間の産卵なんていったら、ビーチでお馴染みのルリスズメダイの興奮モードや産卵の様子すらまったく知らないや…。

 ソラスズメダイの仲間やスズメダイ属の魚、それにオヤビッチャの仲間もナミスズメダイの仲間も、けっこうわかりやすい動きをするから興奮モードはすぐにわかるのに、ルリスズメダイの仲間たちはいったいどのような姿で自分をアピールしているんだろう?

 チビターレがたくさん観られるってことは、実はそれが今の時期なのか。

 …ということにようやく思い至った翌日のこと。

 アヤシゲな動きをしているセナキルリスズメダイがいた。

  小さな根のオーバーハング部分のために暗く、そのためにセナキも暗く見えるのかな…と思ったのだけど、よく見ると彼自身の色が普段と違っている。

 セナキルリスズメダイを正面から見れば、フツーはイエローフェイスになるというのに、彼ときたら…

 …青いんです。

 額(?)のあたりの黄色が多少薄くなることはあるにせよ、ここまで青くなっている姿など観たことがない(ここまで青かったのは最初だけで、ワタシが傍に居続けていたせいか、だんだん青味が薄れていった)。

 そもそもセナキルリスズメダイといえば、砂底から少し上あたりにいて、流れてくるエサを食べている姿がフツーなのに、彼ときたら岩肌に固執しているように見える。

 これはひょっとして…。

 寒さを忘れて観ていると、彼が岩肌に固執している理由がすぐにわかった。

 岩肌に開いている小さな穴に入っていったのだ。

 けっこう奥まで入っているのか、入りきると姿が見えなくなり、しばらくすると…

 ヒョコッ…と穴から顔を出して…

 …そのあとスルッ…と外に出てくる。

 その様子を動画でも…。

 外に出てくるときは、まず顔だけ出してあたりの様子をうかがってから、という段取りをキチンと踏まえているあたり、立派にオトナまで成長したサバイバーの逞しさがうかがえる。

 外に出ている間はときおりエサを食べたりしていて、また穴に入っては出てくる…ということを繰り返してくれるので、何度もチャンスはあった。

 出入りする穴は別にもうひとつあったのだけど、もっぱらこちらの穴にご執心のようだった彼。

 これは卵を守っているのだろうか。

 それともメスに卵を産んでもらうための巣穴を整備しているんだろうか。

 あいにく覗き見用のライトは無いので、穴の中が写るように撮ってみたものの、卵が写っていない…

 …と思ったら、ひとつ下にある全然関係ない穴を一生懸命撮っていたのだった。

 水温の低さが脳に障害をもたらしていたのかも…。

 2日後(あまりの寒さに2日連続がつらかった…)、同じ場所を再訪してみたところ、さっそくセナキパパが産卵床に出入りするシーンが見えた。

 2日前に比べて産卵床に出入りする頻度が少ない気がするものの、まだチャンスはある!

 セナキパパが穴の外に出てエサを食べている間に、今度こそ穴を間違えずに撮らせてもらうことにした。

 はたしてホントに卵があるんだろうか?

 あった!

 でも、ほとんどの卵は孵化したあとで、見える範囲でわずか6つだけ。

 他のみんながどんどん孵化していく間、完全に流れに乗り遅れてしまったのだろう。

 残存卵がほんの少しだけだから、一昨日に比べて父ちゃんの卵ケアの頻度は少なくなっていたのだ。

 ということは、2日前に穴を間違えていなければ、写真はキラキラお目目のタマタマワールドになっていたってことか…。

 せめて昨日、寒さに挫けずに再訪していれば、この日よりはたくさん卵が観られたのだろうなぁ。

 寒さに挫けたワタシとは違い、頻度が少なくなっていようとも、たったこれだけの卵のために甲斐甲斐しくキチンと世話をしているのだから、セナキパパはイクメンの鑑。

 個体数減少が危惧されるセナキルリスズメダイのオトナたちながら、このようにオスたちが頑張ってくれれば、やがて再びセナキルリスズメダイパラダイスが復活するかもしれない。

 まずはこの時期リーフ際近辺で増えてくる↓チビターレたちが、万難を排してスクスク成長してくれれば…。

 がんばれチビターレ、目指せセナキパラダイス復活。