水納島の魚たち

シラタキベラ

全長 15cm

 シラタキベラは昔から、いろいろな図鑑に「日本ではやや稀」とか「稀種」などと書かれている。

 でも水納島の砂地の根ではわりとよく見かけている気がしていたので、そういう記述を見るたびに「こんなにフツーにいるのになぜ??」と首を捻っていたものだった。

 今年(2020年)の春から初夏にかけての季節にも、砂地のポイントに点在する各根の中層で、群れ集うハナダイたちとともに、流れてくるプランクトンを食べている姿をよく見かけていた。

 ほら、やっぱりいるよねぇ、シラタキベラ。

 一つの根にたくさんいるわけではなく、むしろ少ないといえば少ないけれど、稀というほどではない。

 「幻」のシラタキベラダマシのオトナがブイブイ言わせている根でも、6月初旬までは「幻」の脇役として、シラタキベラは立派にその使命を果たしていた。

 シラタキベラダマシの稿でも紹介した、中層でプランクトンを食べていたシラタキベラダマシ、ヤマシロベラ、シラタキベラたちが、突然海底付近に集合したシーンでは、シラタキベラのメス(上向き矢印)やオスになりかけ(右向き矢印)が一緒になっていたし、そのほかにもオスもちゃんと泳いでいたのだ。

 ところが。

 水温が「夏」になる梅雨明け以降、いつの間にやらここの根にいたはずのシラタキベラ(少なくともオスの姿)はどこにも見当たらなくなってしまった。

 あまりにも見当たらないので潜るたびにいろんな根をサーチしたところ、その姿はどこにもない。

 初夏まではあれほどフツーに観ていたのに……。

 それが9月になって、相次ぐ台風襲来のあと久しぶりに海に行くと、砂地の根に……

 いた。

 初夏までのようにどこの根でも…というほどではないにしろ、それまでどこを探しても見当たらなかったオスが戻っていた。

 ひょっとしてシラタキベラ、夏の高水温時には深い深いところで暮らしていて、水温が程よくなると浅いところに暮らしの場を変えるのだろうか。

 もしそうなのであれば、夏に観られないんだもの、通年潜っているわけではない図鑑の著者たちが「稀」と感じるのも無理はない。

 ところで、体の中央に黄色い模様があるおかげで「シラタキベラ」だとハッキリわかるのはオトナのオスで(他の多くのベラ同様雌性先熟なので、メスの中の力のあるものが「オス」になる)、メスはそうと知らない限りほとんど目に留まることがない。

 同じ仲間のヤマシロベラのメスに似ているからややこしいのだけれど、とりあえずエラのあたりと尾ビレの付け根付近に黒点があれば、シラタキベラだと思って間違いないようだ。

 なので↓これもきっとシラタキベラのメスなのだろう。

 以上のメスの写真は、どちらも冬に撮ったもの。

 同じ時期にはちゃんとオスもいて、メス相手にちゃんと盛り上がっていた。

 通年観られるヤマシロベラは真夏でもヤマシロベラにはフツーに会えるのだけど、先述のようになぜだかシラタキベラのオスは、7月8月には滅多に会えなくなってしまう。

 秋になって戻ってきたオスには、冒頭の写真のようなオス歴が長そうなバリバリブイブイの成熟個体が観られる一方で、オスデビューしたてらしいメスのライン模様を顔のあたりにうっすら残しているものも同じ場所にいる。

 ときにブイブイオスが牽制をしつつも、両者が激しく争う様子は見られなかったところを観ると、オスが何匹かいても特に問題はないらしい。

 稀なようで稀ではなく、フツーにいるようでフツーではないシラタキベラ。

 でも。

 稀であろうとフツーであろうと、多くの方が気にも留めない「ベラ」であることだけは間違いないのだった……。