水納島の魚たち

シリテンスズメダイ

全長 9cm

 シーズン中、桟橋に留めているクロワッサンの船の近くには、いつもオヤビッチャのチビたちが集まっている。

 ゲストにとっては小さな船でも、彼ら幼魚にとっては大きな拠りどころになっているのだ。

 そんな幼魚たちも、大きくなるとリーフの外に出て行く。

 リーフの外で群れているオヤビッチャを観ていると、オトナのオヤビッチャよりもひとまわり小柄で、背中の黄色がうっすらしている魚が混じっていることがある。

 ワタシは長い間、それをオヤビッチャの若魚だとばかり思い込んでいた。

 ところが!

 2009年に大方洋二さんのブログを拝読して、それがまったく別種のスズメダイであることを知った。

 その名もシリテンスズメダイ(と一度名付けられたものがその後一時宙に浮いていたそうなのだけど、2017年にようやく確定したという……ことを知ったのも大方さんのブログから)。

 尾ビレの付け根付近にある黒い点が名の由来だろう。

 前掲のブログによると、巨匠・大方洋二氏は、名前がつけられる遥か以前から両者の違いに注目し、果ては婚姻色や求愛行動、そして産卵場所の違いなどに鑑みて、明らかに別種であると確信されていたという。

 まさに慧眼。

 我々凡百の節穴とは訳が違うのである。

 とはいえ、上の写真ならまだしも、こういう子になるとほとんどオヤビッチャでしょ?

 違いがわからなかったのも無理はない………ですよね?

 水納島ではオヤビッチャに比べると遥かに数は少なく、一緒に泳いでいることもよくあるため、気づかずにスルーしてしまう率は高い。

 リーフ際では↑このように、オヤビッチャと一緒に泳いでいることも多いんだもの。

 でも一度両者が別種であると認識できれば、見分けるのはたやすい。

 オトナのシリテンスズメダイはオヤビッチャよりも小柄で、黄色も薄く、たとえ名の由来の尾ビレ付け根の点が無くとも、すぐにそれとわかるはず。

 どっちがどっちか、もう大丈夫ですね?

 ただ、通常はほとんどオヤビッチャと同じように暮らしているものの、産卵場所がまったく異なり、オヤビッチャのようにわかりやすい場所に卵を産んではくれない。

 どうやらシリテンスズメダイたちは浅いリーフ上の切れ込みにある、まったく日が当たらない暗い場所のしかも天井を産卵床に選んでいるらしく、そのため通常のダイビングでお目にかかる機会がほとんどないのだ。

 オヤビッチャとは明らかに異なるという婚姻色、是非一度拝見してみたい。

 撮るチャンスに恵まれればアップいたします。

 追記

 婚姻色は出してはいなかったけれど、今年(2018年)ついに、産卵床の卵を守っているシリテンスズメダイに出会った。

 スネイル&クラムの確保に勤しんでいたときのこと。

 あいにく満潮時なので潮位が高く、いちいち長めに息堪えしつつサーチしていると、オヤビッチャそっくりのシリテンスズメダイが1匹、一昨年の白化で死んだのであろう元テーブルサンゴの下から忙しげに出入りしていた。

 観ていると、近寄る魚を神経質そうに追い払っている。

 ひょっとして?

 覗いてみると……

 死サンゴの裏面(天井部分)には、ビッシリと卵卵卵!

 案の定、シリテンスズメダイの産卵床だったのだ。

 オヤビッチャと見紛うくらいにそっくりなくせに、この産卵床の場所は、なるほどたしかにオヤビッチャとはまったく異なっている。

 それもこんなリーフの上、満潮時でも水深2m弱となれば、これまで目にしたことがなかったのも頷ける。

 スネイル&クラム目的だったにもかかわらず、コンデジを手にしていてよかった…。

 オヤビッチャと一緒にリーフ際を泳いでいる時は及び腰ですぐさま逃げ去るシリテンスズメダイなのに、卵を守っているパパはオヤビッチャに比べれば遥かに気が強く、迫るワタシにも物怖じせず果敢に追い払おうとしていた。

 この時卵を守っていたパパの体色は、通常とさほど変わらぬものだった。

 オヤビッチャとは相当異なるシリテンスズメダイの婚姻色・興奮色は、産卵時にオスがやる気モードになって発色しているに違いない。

 場所の見当はついたから、タイミングさえ合えば目にする機会があるかもしれない。

 追記(2023年7月)

 今年(2023年)の6月上旬に、学生時代の友人が県内に住む娘を連れて遊びに来たので、リーフ上を親子で泳いでもらうべくボートで海に連れて行った。

 親子水入らずを邪魔しないよう、ワタシはワタシでコンデジ片手にリーフ上のかなり浅いところをウロウロしていたところ、テーブル状に育っているミドリイシの周辺で、そこを縄張りにしているような動きを見せるシリテンスズメダイの姿が目立っていた。

 これは産卵床に産みつけられた卵を守っているオスなのでは?

 サンゴの裏を覗き見てみると、案の定サンゴの裏側に卵がビッシリ。

 そうやって卵を守っているほとんどのシリテンオスは通常モードの体色だったのだけど、産みたて卵っぽい色味の卵(サンゴの裏面のピンクの部分)をケアしているシリテンパパは……

 おお、真っ黒!

 狭いところながらコンデジゆえにかろうじて撮れているその姿は、ノーマルカラーとはまったく異なっていた。

 卵が産みたて色ってことは、最前までメスを相手に張り切っていたわけで、その興奮の名残りが残っているってことなのだろうか。

 それともまだ空いているスペースに新たな卵を産んでもらうため、メスを相手に張り切っている最中だからなのだろうか。

 いずれにしても、初めて目にしたシリテン興奮モードは、オヤビッチャとはひと味違っていたのだった。