水納島の魚たち

シチセンベラ

全長 3cm(オトナになると25cm)

 その昔恩納村以南の沖縄本島がホームグランドだった学生時代のワタシにとって、このシチセンベラはよく出会う魚のひとつだった。

 群れているとかワラワラたくさんいるというわけではないのだけれど、いつもだいたい同じ場所にいるから、行けば会える魚だったのだ。

 ドロップオフの崖沿いとか、水深10mくらいの入り組んでいるリーフエッジの壁沿いなどで、いつも一人きりでいるオトナをよく目にした。

 いつも会えるベラとなると、そこはモノを知らぬ学生ゆえさほどヨロコビの対象にはなっていなかったのだけど、沖縄本島とは比べ物にならない魚影を誇る西表島のスーパーガイドさんが、「西表島ではほとんど観ないのに、本島にはフツーにいる魚」のひとつとしてこのベラを例に挙げておられたことがある。

 なるほど、本島ではフツーに会えるけど、他所じゃ珍しい魚なのか…。

 それを知って以来、シチセンベラを見る目が変わった。

 …のだけど。

 水納島でもやっぱり少なかったシチセンベラ。

 たしかに、かつて本島で彼らをよく見かけたような環境は、水納島にはなかなかない。

 ただ、一カ所だけ、訪れるとたいていそこにいるオトナのシチセンベラが、けっこう長い間居続けてくれたことがある。

 そこはリーフエッジが入り組んだ岩場で、トンネル状になっているところやオーバーハングが作る暗がりがたくさんある場所だ。

 ただし水深は5mほどと随分浅く、個人的シチセンベラ最浅記録をずっと保持していた。

 この長居君はひところ姿が見えなくなっていたのだけれど、同一個体なのか別個体なのか、同じ場所でまたオトナが観られるようになった。

 色柄は陽気なハデハデタイプながら、よく見るとその口元は上下の歯がけっこう攻撃的に並んでいたりする。

 ここに来ると会えるので「珍」感があまりないものの、逆に言うとここでしか会えないたった1匹のシチセンベラなのだから、やはり水納島では「珍」ということになる。

 これとは別に、砂地のポイントのリーフエッジの暗がりで、5cmほどのチビチビに出会った。

 5cmのチビチビも人生初なら、たとえ根ではなくとも砂地のポイントにいるってことがそもそも衝撃的なシチセンベラ・ヤング。

 オトナには無い眼状斑が、若さの印だ(オーバーハングの天井側を行き来していることが多く、写真は実際の天地とは逆)。

 ゆっくり成長しつつ、その後2年ほどほぼ同じ場所にいてくれた。

 5cmのシチセンベラだなんて、もう2度と会えないかも…

 そう思っていたところ。

 2018年4月、オトナとよく出会うリーフ際のトンネル内で、まさかのシチセンベラ・チビチビチビチビに遭遇した。

 そのサイズ、わずか3cm!

 ふてぶてしくさえ見えるオトナとは違い、たとえカラフルさでは見劣りしていようと、やたらとメルヘンベビーなシチセンベラ・チビターレ。

 オトナの存在を知って以来、30年経ってようやく出会えた激チビはスペシャル級に「珍」ながら、少ないけれど会えなくはないオトナは「半珍」くらいか……。

 というわけで、種類でいうならそのレア度、一応……

 「珍」マークは3つが最上級です。

 追記(2023年11月)

 今年(2023年)の10月の末に、我々のイセエビ貯蔵庫的半洞窟の暗がりを久しぶりに探訪してみた。

 すると、数年前まではいつも美味しそうなサイズがワラワラいた半洞窟に、イセエビの姿はまったく無し…。

 8月のZターン台風の激流で、みんな吹き飛ばされてしまったのだろうか。

 イセエビには会えなかったかわりに、シチセンベラの最小記録更新という出会いがあった。

 …オタマサに。

 本文中で紹介しているこれまでの最小記録は3cmほどだったのに対し、今回は15mmほどと断然小さい。

 小さい頃はみなそうなのか、ストライプ模様のクッキリ度は随分控えめで、暗がりの岩肌にはつきものの石灰藻などの色柄に対し、見事にカモフラージュの役割を果たしているようだ。

 残念ながら真横から撮る前に岩肌の裂け目に逃げ込んでしまい、二度と出てくることはなかったというシチセンチビターレ。

 他にも15cmほどの若い成魚も泳いでいたところをみると、やはりシチセンベラはこのような環境が大好きなのだろう。