水納島の魚たち

ソメワケベラ

全長 12cm

 ソメワケベラの仲間は、他の魚をクリーニングする魚、すなわちクリーナーとして名を馳せている。

 リーフ際から砂地の深い根まで、わりといろんなところにいるホンソメワケベラに対し、このソメワケベラはリーフ際近辺の浅いところがお気に入りだ。

 ホンソメワケベラに比べるとオトナのソメワケベラはけっこう大柄で、クリーナーとして繊細さが要求される細かい手技は苦手なのか、クリーニング作業もいささか大味な感がある。

 クリーニングをしようとする際にも、ホンソメワケベラはクライアントに気を配りつつ静かにさりげなく近づいていくのに、ソメワケベラときたら、

 「ほらほらほら、掃除するわよッ!!」

 という感じで、客のほうが圧倒されているように見えることもある。

 いわば、高級リストランテとマンマのトラットリアにおける接客の相違のようなものか……。

 作業が大味な分、クライアントさんも大きめの魚が多い。

 コバンヒメジも…

 オジサンも。 

 あまりの心地よさに、うっとりして朱に染まる。

 客がこれくらい大きいと、なにやら細かなケアもしてくれそうな雰囲気が漂うけれど、これでお客さんがオトメベラとなると……

 ほとんどのしかかられているかのような勢いだ。

 でもやっぱりクリーナーとしての基本技術、腹ビレ絶妙タッチはソメワケベラにとっても必須。

 ニジハタくらいのサイズになると、ソメワケベラの刺激も心地いいのか、思わずウットリ顔になる。

 オトナはリーフ際のわりと目立つところにいることが多いのに対し、幼魚はリーフ際のオーバーハングの陰など、かなり暗いところに潜むようにして営業している。

 暗いところに潜んではいるのだけれど、金色に輝いて見えるラインがよく目立つから、お客さんになる魚たちもきっとそれを目印にしているのだろう。

 もっと小さい頃は、金色ラインがさらにクッキリハッキリしている。

 これで2cmないくらいのチビターレで、もう少し大きくなると、金色ライン1本だった模様が、尾ビレのあたりで複雑になってくる。

 これくらい小さなうちなら、小柄なシチセンチョウチョウウオも気軽に身を委ねられるようだ。

 この金色ラインは、少し成長するとだんだん白っぽくなってくる。

 この頃までは、まだ繊細なタッチをしていそうな雰囲気がうかがえる。

 ここからもう少し成長すると……

 金色〜黄色だったラインが、随分白くなる。

 これで5cmほどで、これくらいまで育ったソメワケベラは、営業スタイルも随分オトナに似てくる。

 まだ岩陰に潜み暮らしてはいても、行動範囲が広がっているからか、時にはお客さんに馬乗りになるかのようにくっついたまま、かなり遠くまで一緒に移動したりもする。

 静止画像だけ見ると、コクテンサザナミハギをクリーニングしているかのように見えるソメワケベラの幼魚。

 ところがこの子は、まるでロデオマシーンで遊んでいるかのごとく、コクテンサザナミハギが移動していくのに任せ、ずっとこのポジションどりのまま随分遠くまで運ばれていった。

 ついていくのがしんどくなったので、諦めて見送るワタシに、ふとカメラ目線をくれた彼女は……

 なんだか微笑んでいるかのような……。

 ひょっとして……遊んでいるのか??

 さらに成長すると……

 目立っていたラインは薄くなってきて、「染め分け」っぽい体色となり、雰囲気がオトナに近くなってくる。

 この頃でもまだ岩陰にいることのほうが多いけれど、さらに成長すると、上半身にあったラインはほとんど痕跡程度になり、ソメワケベラという名もしっくりくるようになる。

 この頃にはもう行動範囲は随分広くなっており、岩陰だけではなく、表舞台も生活の中心の場にするようになる。

 そうなると活躍の場は広がるものの、幼魚の頃のような繊細タッチ感を期待できそうにない。

 なにしろ↓こんな顔をして気ままに泳いでいるのだから。

 この大口で繊細なクリーニングを求めるなんて、土台無理な話。

 リーフ際のオーバーハングの陰でアカマツカサ類がたむろしていると、オトナのソメワケベラはヤデウデシヤとばかりに居並ぶアカマツカサ類を矢継ぎ早にツンツンしていく。

 しかし手荒すぎるのかそもそも雑なのか、痛い目に遭って怒ったアカマツカサに追われるシーンをよく目にする。

 そんなオトナのソメワケベラたちは、リーフエッジ付近で1匹のオスが複数のメスを囲うハレムを作っている。

 ハレムとはいっても、行動範囲は広く、普段はめいめいが大雑把なクリーニング業務に精を出している。

 ところがどういう風の吹き回しか、水温が上がり始めると、かなり広い範囲を2匹でずーっとデートしていることがある。

 その途中にクライアントに出会うと、普段滅多に見せないツープラトンのクリーニングも見せる。

 デート中でゴキゲンだからなのか、いつになくサービス精神旺盛で、ニジハタはたちまち歓喜の絶頂に達してしまった。

 この春のデートが即産卵行動につながるのかどうかは未確認ながら、もっと水温が上がる季節になると、潮のタイミングに合わせてオスがアヤシイ動きを見せ始める。

 ベラ類には日中に産卵するものが多く、ソメワケベラの仲間も同様で、オスはメスに対して産卵を促すアピール泳ぎをしているのだ。

 そしてだんだんメスの気分が盛り上がってくると、2人揃って中層へと上昇し始める。

 ここから先は、動画でどうぞ。

 産卵に至るまでには、観ている者の気を持たせる動きが何度かある。

 互いのボルテージが最高潮に達するまでの儀式なのだろう。