水納島の魚たち

ソラスズメダイ

全長 5cm

 砂底が広がり始める手前の、ごくごく浅いガレ場に当たり前のように群れてくれるから、誰でも苦も無くいつでも普通に観られるソラスズメダイ。

 ルリスズメダイの稿でも触れているとおり、ルリ…がインリーフの浅いところに住んでいるのに対し、ソラスズメダイはリーフの外におり、リーフ際の転石が多数転がっているような浅いところで、目にも鮮やかな青い集団を作っている。

 それは沖縄の海では当たり前の風景だから、当たり前すぎていつしか気に留めなくなるダイバーは多い。

 けれどこの世はおしなべて無常であることに鑑みれば、そんな「当たり前」が未来永劫続く保証などどこにもない。

 なのでたとえいつでも観られるシーンでも、白い海底に青く輝く小魚がたくさん泳いでいるなんて、なんて感動的なんだろう……と、海中でふと我に返るたびに感激している。

 すると、たいてい礫底にいるソラスズメダイたちが、何を思うのか、サンゴの枝上に群れていることがたまにある。

 海底にいてさえ絵になる青い宝石たちがこの密度でサンゴの上にいるだなんて、なんとゼータクなシーンだろうか…。

 ところで、普段水納島で目にするソラスズメダイたちは、たいてい上のような色合いをしているけれど、彼らは気分や体調で体色を微妙に変化させる。

 その昔冬の伊豆(大瀬崎)で潜った時に観たソラスズメダイは、夏とは明らかに異なる↓こんな色をしていた。


西伊豆・大瀬崎にて(94年2月11日撮影)

 小さく可憐なカラフル熱帯系スズメダイ類のなかでは、ソラスズメダイは最も低温に適応しているのだそうな。

 とはいえそれにも限度があるようで、雪が降るほどに冷え込んだ冬の伊豆は、彼らにとってほとんど機能停止級の寒さだったのかもしれない…。

 寒さに耐えかねて色が変わることもあれば、燃える恋心が体の色まで変えることもある。

 4月下旬のことだったから、↑これはおそらくは婚姻色を発しているオスであろうと思われる。

 水中ではもっと濃く見えて、青というよりは黒に近いイメージだった。

 こうなるともう、空というよりは成層圏?

 そんなソラスズメダイたちは、恋の季節になると、自らをアピールする動きをするようになる。

 いわゆるテールアップと呼ばれる動きで、そうやれば何がどうなるのか不明ながら、メスに対しては強いアピールになるらしいのだ。

 そのため転石帯あたりでは、各所でオスがこのテールアップをしている様子が観られる。

 アピール期間が過ぎると、オスはメスを産卵床に誘う。

 ソラスズメダイは小石の裏など隙間を産卵床にするため、石を引っくり返しでもしない限り卵を目にする機会はない。

 でもたまに、隙間から卵が垣間見えることもある。

 二枚貝の貝殻を利用しているソラスズメダイパパに遭遇したのだ。

 いうまでもなく貝殻の内側が産卵床だ。

 卵をケアしつつ、周囲の縄張りチェックも怠りなく、という忙しい日々を過ごしているソラスズメパパだから、貝殻の内側に入ってはまた外に出て、また入っては外に出る、という動作を繰り返している。

 貝殻の内側に入っているときは、クマノミたちが卵の世話をするときのように、こまめに各卵のケアをしているソラスズメパパ。

  ストロボ光が届いているから貝殻の内側まで見えているけれど、肉眼では暗がりのため、卵がどこにあるのか全然わからない。

 でもパパの動きを見るかぎり卵があることは間違いなさそうだから、見当をつけて適当に何枚か撮ってみたら卵が写っていた。

 両方の貝殻の内側に卵が産みつけられている。

 前述のとおりソラスズメダイの仲間たちは小岩の下の隙間などを利用して産卵床にするのがもっぱらなのだけど、「おあつらえ向き」のものがあれば、貝殻や人工物などをちゃっかり利用しているようである。

 小岩の裏側とかだとなかなか覗き見できないところ、こういうちゃっかり利用の場合は、デバガメ撮影がしやすい。

 産卵床付近はとにかく整理整頓邪魔なモノ無し、という状態にしておくのが基本方針らしく、少しでも小さな礫が産卵床内にあったりすると……

 パパはすぐさま排除する。

 どこで潜ろうとも当たり前に観られるため、見慣れている方ほどスルーすることになるソラスズメダイ。

 でも注目してみると、けっこう興味深い様子をいくらでも見せてくれるカワイイ魚なのである。