全長 8cm
カタカナにして合計14文字をも費やす長大な名前の持ち主、スミツキアトヒキテンジクダイ。
魚の名前を覚えられないとお嘆きの方々ならば、この文字の多さを見た瞬間に、その名を覚えようという気力も失せることだろう。
とはいっても、水納島ではそうやすやすと観られる魚ではない。
図鑑によるとこの仲間は「礁池に生息」とある。
礁池とはすなわちインリーフのことで、島によってはそれなりに水深のある環境もあって、枝サンゴの周りに幼魚がスカテンのように群れ集う海もあるらしい。
けれど水納島のインリーフは、どこであれ満潮時でさえ水深ヒトケタmに過ぎず、それだと浅すぎるからか、リーフの中でスミツキアトヒキテンジクダイを観たことはない。
水納島での彼らは、むしろ深いところでしか観られない。
わけても、広い空隙がある根が好きなようだ。
そういうところでワシャッと群れ集う幼魚を目にしたことはないけれど、ひところなぜだか多数の若魚が集まっていることがあった。
それまでこの場所ではまったく見られなかったのに、ある年突然ポッと湧いて出たかと思ったら、その後数年居続けてくれた。
本来はもっと深い根が好きらしく、普段めったに行かない深場の根に行くと、暗がりではなく日の当たる(でも深いから照度は暗め)サンゴの周りに多数が集まっていることがある。
こうしてテキトーに集まっているように見える彼らも繁殖期になるとペアごとになり、かなりのアツアツぶりな様子を見せてくれる。
その寄り添い方はキンセンイシモチやアオスジテンジクダイと同じく密接密着タイプで、メスは口内保育中のオスのそばを片時も離れない。
仲睦まじいカップルたちがこうして子育てに励んでいるくらいだから、水納島の近海でも、きっとどこかにスミツキアトヒキテンジクダイの幼魚たちが集まる場所があるのだろう。
一度観てみたい、幼魚たちの群舞…。