水納島の魚たち

テンスモドキ

全長 10cm(写真は2cmほどの幼魚)

 ホシテンスハゲヒラベラのチビが観られる砂底では、頻度的に同じくらいのわりで、両者とは似ても似つかないテンス系の魚にちょくちょく会う。

 ちょっとした小石の傍などに佇んでいるので、どれどれちょっとばかし撮らせてもらおうかなぁ…と近寄ると、すぐさまつれなくスーッと離れていく。

 フィルム時代には1、2度撮ったことはあったものの、デジイチを使うようになってからは、撮る間もなく逃げていく姿を見送っては、その都度「また今度ね…」と諦め続けていた。

 なまじチョコチョコ出会うだけに、千載一遇時に湧き出すような集中力はまったく発動されないのだ。

 このままではいかん、とワタシが目覚めたのは、デジイチを使うようになってから10年以上経ってからのこと。

 そしてようやくその姿を記録に残すことができた。

 白っぽい体に赤っぽいラインがわりと目立つから、特にご興味がなくとも、水納島の砂地でご覧になったことがある方も多いことだろう。

 記録に残せてはいなかったけれど、昔からお馴染みの魚で、珍しいわけでもなんでもない。

 ところがご存知のとおり図鑑で見るテンスモドキは、撮影地や個体ごとにそれぞれまったく色味が異なるものばかりで、水納島のような白い砂底で撮影されたものが見当たらない。

 なので前世紀末の時点ではまったくナゾのテンスの仲間でしかなかった。

 それがテンスモドキである、ということを知るに至ったのは、ホシテンスの稿でも触れた、瀬能さんのご教示のおかげだ。

 ホシテンスと思われるチビターレのほか、当時我々にはまったく不明だったいろいろなテンス系幼魚の写真をご覧いただいたのは四半世紀ほど前のことになる。

 おかげで赤いラインが目立つものがテンスモドキであることを知り、なおかつ成長するとこのラインが消え……

 ただの白っぽい姿になっているものもテンスモドキであることを知るに至った。

 体の真ん中あたりに見える白い帯状の模様はストロボの反射ではなくて、こういう斑紋が特徴なのだそうで、そこに注目すると、赤いラインの有無に関係なく、両者が同じ種類であることがわかる。

 お腹のあたりのビミョーなシマシマ模様も同じだ。

 白っぽい子は10cm弱くらいで、大きくても10cmほどのものしか観たことがない。

 図鑑的にはテンスモドキは15cmくらいにまで育つようながら、そんな大きなテンスモドキっぽい魚を目にしたことがない……気がする。

 ひょっとして毎年定期的に流れ着いているだけで、主生息域はもっと南方なんだろうか。

 ともかくそんなわけで、水納島で観られるテンスモドキのオトナや子供の色味はだいたいこんなものか…とわかったつもりになっていた昨年(2020年)のこと。

 梅雨時に特に目的も無く砂底を徘徊していたところ、沈木のそばで↓このようなチビと出会った。

 2cmにも満たないチビチビながら、ビヨンと伸びた背ビレがカッコイイ。

 この奇妙奇天烈なチビターレはいったい誰だ!?

 …と、発見当時は相当色めき立ったのだけど、拙日記上でナゾのテンスのチビターレとして紹介したところ、久米島のプレスーパーガイド・アカザキ氏のご教示により、なんとこの子がテンスモドキの幼少時の姿であることを知った。  

 ほぼ無地のオトナと比べればもちろんのこと、赤いラインが入っているチビと比べてさえ、似ても似つかぬその姿。

 たしかに赤いラインが「ライン」ではなく、やや途切れ気味になっているチビもちょこちょこ見かけるとはいえ、それがまさかお腹にまで達する帯模様の名残りだったなんて…。

 ネット上ではどうやらテンスモドキとして認定されているようながら、少しばかり眉に唾をつけてもいたワタシ。

 ところがその後、両者の中間段階的なチビに出会ってしまった。

 オトメハゼの巣穴を緊急避難場所にしていた、3cmほどのチビ。

  ところどころ途切れている赤いラインから、下に向かってうっすらと帯が出ている。

 まさにミッシングリンク!

 こうしてついに、チビチビの頃からオトナまで、ほぼ全世代を網羅することができたテンスモドキ。

 手掛かり皆無だった前世紀末のことを思えば、まさに隔世の感ありってところだ。

 ま、いずれにしても、あらゆる世代を通して最も特徴的かつカッコイイ姿といえば……

 今年(2021年)を含めた過去27シーズンで、たったの1度しか出会ったことがないくらいだから、少なくとも水納島では相当レアのはず。

 出会いのチャンスが訪れたら、是非「千載一遇」モードでご覧ください。

 ん?

 蛇足ながら、そういえばこのチビターレにかぎらず、もう少し大きめのチビも含め、彼らが砂遁の術を使うのを観たことがないかも。

 そこはやはりホシテンスたちテンス属とホンテンスモドキ属の違いなのだろうか。

 オビテンスモドキ属のオビテンスモドキも砂の中に潜り込まないものなぁ……。

 追記(2023年1月)

 その後ホシテンスモドキのチビに出会うたびに注目していたところ、彼女たちチビターレの体形や体色は、一筋縄ではいかないことがわかってきた。

 ホシテンスモドキは、極小チビの頃にいったん冒頭の写真のように背ビレが長く伸び、やがて短くなってくるのか…

 …と納得しかけていたところに出会ったのは、1cmほどのチビターレだ。

 まだこのテのチビたちが出始めるにはいささか早い気がする2月のことで、背ビレは全然長くない。

 この翌月、3月に出会ったのは↓こちら。

 この春(2022年)はポイント限定ながらやたらとテンスモドキのチビの数が多く、ポツポツ生えている各ガヤごとにチビターレがいたくらい。

 ↑これはそのうちの2cmちょいほどの子で、1cmほどのチビに比べると長いものの、冒頭の写真の子ほど背ビレが伸びているわけではない。

 また、個体数が多いからだろうか、4月になると千切れ藻の塊に3匹集まっていたこともあり、そうなるとだんだん警戒心が緩んでくるのか、砂底から生えるトサカの傍にいた子などは…

 …アクビまで披露してくれた。

 3〜4cmくらいのチビになると、基本的にこのような体色を見せるテンスモドキの幼魚たち。

 それより小さいチビターレの体色に注目してみると、同じように白い砂底にいるものでも、苔むした小岩を拠り所にしていたからだろうか、それともポイントが全然違うところだからだろうか、同じく4月に出会ったチビは随分茶色味が強い。

 そうかと思えば、砂底に短期間だけ広がっていたコテングノハウチワという海藻の群落には…

 ん?この緑のチビ、まさか…

 そのまさかだった。

 いやいや、緑色のテンス系チビターレといえばヒラベラチビのミドレンジャーでしょう…という声もあるかもしれないけれど、フォルムといいポーズといいうっすら見えるこの模様といい、どう見てもテンスモドキにしか見えない。

 環境に合わせて体色を変えているらしい…と朧げにわかってきたところだったとはいえ、まさかミドレンジャーバージョンまであったとは。

 まだまだ知られざるバージョンがあるかもしれないテンスモドキ、あまりに異なる色だと、テンスモドキモドキになってしまうかもしれない。