全長 10cm
全身に散りばめられた山吹色のスポットがとても美しい共生ハゼ。
この美しさだから、もっともっとダイバーに人気があっても良さそうなものなのに、ワタシが知る限りヤマブキハゼが一躍メジャーデビューを果たしたことはないし、「ヤマブキハゼを観たい!」なんていうゲストに出会ったこともない。
彼らはリーフ際のオーバーハングの下でいつも日陰になっている礫混じりの砂底にいることが多いため、肉眼で観るとその美しい体色はさほどの輝きを発していないからかもしれない。
ちなみにもっと若い頃は、山吹色のスポットは慎ましく控えめな感じ。
大阪のおばちゃんだって、少女の頃から豹柄の服を着ているわけではないのだ。
美しい模様のヤマブキハゼではあるけれど、せっかく出会えてもわりと警戒心が強いため、すぐに半身を巣穴に隠してしまうこともある。
そういう場合はそれ以上近づかず、少し離れてジッと待っていると、わりと短い時間でまた全身を出してくれる。
なかにはそういう手続き(?)を踏む必要のないお利口さんな子がいて、パートナーのエビちゃんがワッセワッセと働いている様子をたやすく見せてくれることもある。
水納島の場合、ヤマブキハゼのパートナーは、このコシジロテッポウエビしか観たことがない。
パートナーのエビを紹介してくれるほどの子であれば、正面からのにらめっこにもつきあってくれる。
しかも、ちゃんと「アップップ!」までしてくれる。
以前は先述のような場所でいつでも観ることができたヤマブキハゼ。
個体数の多さが、人気の度合いに反比例になっているのだろう……
…と長らく思っていた。
ところが近年は、昔の記憶に比べると思いのほか出会う機会が少なくなっている。
むろん我が豆腐脳の記憶などまったくアテにならないことは百も承知しているけれど、2018年にちょっとばかしサーチしてみた際には、彼らが居そうな場所にもかかわらず、1ダイブでまったく観られないこともあったほどだ。
もちろん場所によってはいることはいるから皆無というわけではないんだけど、当たり前のようにそこらにいた当時を思えば、「なかなか観られない認定」をすべき貴重なハゼになってしまっているような気がする。
騒がれることもなくフツーにいたはずの生き物が、気がつけばいつのまにやらいなくなっている、という話は、海の中に限らず数多い。
学術的に貴重だと騒がれているものが絶滅するよりも、当たり前にいたものがいつの間にかいなくなっている、ということのほうが、ある意味よほど哀しくも不気味でやるせない。
これがまた、ダイバーが入らないところにいけば以前と変わらずたくさん観られる、ということなら、まだホッと胸をなでおろすこともできるのだけど……はたして。
※2020年以降は、2018年に比べると出会う頻度は増えている(2021年現在)。
※追記(2025年3月)
その昔に比べるとまだまだながら、2018年前後の減少ぶりと比べれば、その後もヤマブキハゼとは比較的コンスタントに会えるようになっており、オーバーハング下のやや暗い砂礫底で、キバッた顔を見せてくれたりもしている。
このまま順調に増えていくことを祈ろう。
※追記(2025年8月)
昨夏(2024年)の白化でリーフ上のサンゴはほぼ死滅してしまったけれど、ヤマブキハゼたちはそれとは関係なく、今年もわりとコンスタントに会える状態が続いている。
会えるものだからふと思い至ったことに、そういえばたくさんいた頃から、ヤマブキハゼがペアでいるところを観たことがない。
おそらくヤマブキハゼのオスメスは、たとえ繁殖期でもペアになって四六時中一緒にいるのではなく、大事な時だけの束の間の関係なのだろう。
とはいえ不思議なのが、7月上旬に出会ったこのヤマブキハゼ。
お腹がポンポコリンに膨れているのは、おそらく卵なのだろう。
ということはメス。
では、このポンポコリンの卵に受精させる役割を担うオスは、いったいどこにいるのだろう?
周囲を見渡しても他にヤマブキハゼの姿は見えない(そもそもヤマブキハゼが近いところに2匹いるところを、過去に見たことがあったかどうか…)。
いよいよ産卵というとき、オスはいったいどこからやって来るのだろうか。
謎である。
近くに伴侶の姿は見えなかったけれど、働き者のパートナーには恵まれているヤマブキハゼマタニティ。
ひょっとしてこのコシジロテッポウエビが、地中ネットワークを使ってオスとコンタクトをとってくれているとか?