●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2012年5月号
台風や季節風による欠航でもないかぎり、1年中休むことなく運航し続けている連絡船は、公共交通機関である以上、定期的に検査を受けなければならない。
年に1度、船を陸揚げしてエンジンその他様々な部位を点検・整備する、いわゆる「ドック入り」だ。
そのための施設が本島南部の糸満市にあり、島の連絡船「ニューウィング・みんな」も、そこで10日ほどかけてじっくり検査整備されることになる。
連絡船がなくなってしまうと、島は孤立無援の文字通りの孤島になってしまうので、その間はちゃんと代船が就航することになっている。
これは水納海運が自ら手配しているものだけど、オフシーズンのことだから大型船である必要はなく、島の人の持ち船である、定員17名の小型船「はまかぜ号」が利用されている。
私がこの代船はまかぜ号に初めて乗ったとき、乗客が定員一杯だったので、8名くらい収容可能なキャビンは他の方に譲り、外のデッキに腰掛けることにした。
するとその日は少し波があったせいで、15分後に水納島に着いたときには、体半分びしょぬれになってしまっていた。
もちろん、買い物してきた品々も……。
車検に出している間の代車がベンツやBMWではないのと同様、代船の居住環境が本家を上回ることはないのだった。
連絡船のドック入りは、先方の都合に左右されることもあって、ここのところずっと春休み期間に重なる日程になっている。
オフシーズンの間、ほぼ空気しか運んでいないというのに、よりにもよってせっかく観光客が比較的多くなる季節になって、いきなりドック入り。
となると定員17名の小型船では1度の便で乗客すべてを載せることができない日も多くなり、ピストン輸送の臨時便で対応しなければならなくなる。
そしてもちろん、波がある日には、そのたびにびしょぬれの観光客の方が何人もできあがる。
また、年度末および新年度とも重なるので、離任・着任される水納小中学校の先生方の引越し荷物を載せるのに、四苦八苦する大騒ぎにもなってしまうのだった。
小型船だからそれ相応の不便は当たり前といえば当たり前。それでも乗船料は据え置きという、おそるべきダウンサイジングのドック入り期間。
それでもありがたいことに、初めて来島される方は、
「水納島程度の小さな島だったら、連絡船もこのサイズなのね…」
と妙に納得されているフシもある。
たしかに天気が良くて凪いでいる日だったら、前側のデッキにある白いデッキチェアー(限定3名)に陣取れば気分はすっかり南国リゾート。
ビール片手でもいいかもってぐらいだ。
まるで無人島のように見える離れ小島に向かう期待感を、否が応でも盛り上げてくれる。
また、クジラの季節とも重なる代船運航期間には、航路途中でザトウクジラに遭遇することもたまにあって、小型船ならではの機動性を活かした、予期せぬホエールウォッチングができることもある。
そのうえ船長が面白い人で、乗船時から航行中まで、いろいろと島の話が聞けることもあるという特典つきだ。
一年のうちでこの代船に乗ることができるのはたった10日間だけ。
滅多にないチャンスに当たったと考えれば、海水をかぶってしまうなんてことも、きっとアトラクションの一つのようなものと思えることだろう。