●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2013年12月号
沖縄県の昆布消費量は全国的に見てかなり多いのだけれど、ツナ缶もまた昆布に負けず劣らず沖縄の食卓には欠かせない存在だ。
12~15缶入りのツナ缶ケースが、スーパーで普通に売られているくらいである。
私が初めて水納島の民宿に泊まった25年ほど前のこと。
その際いただいた朝食のお味噌汁の表面には、なぜかコッテリと油が浮いていて、底のほうには白っぽいたんぱく質系の何かがあった。
おいしくいただいたものの、その正体がわからず「?」と思ったものだった。フツー、お味噌汁に油はうきませんものね。
水納島に引っ越してきて民宿のお手伝いをするようになり、その謎は解明された。
味噌汁を作るとき、仕上げにツナ缶をパカッと開けて、そのまま中身を全部入れるのだ。
初めて見たときはかなりびっくりしたけれど、ツナがなにげに絶妙なコクを生み出している。
そのお味噌汁を毎日いただいているうちに、やがて我が家で作る普通のお味噌汁がなんとなく物足りなく思えてくるから不思議である。
味噌汁に投入するくらいだから、ツナ缶の活躍の場は無限大だ。
いわゆるチャンプルーにもよく使われるし、島では味噌とツナと調味料をあわせて火を通し、おにぎりの具(油味噌)にすることもよくある。
それほど需要があるものだから、何かのイベントの景品にツナ缶1ケースがラインナップされることもザラにあれば、お中元・お歳暮の贈答アイテムにもなっている。
沖縄におけるツナ缶は、まさに生活に密着した食品でなのである。
ちなみに、沖縄県は全国有数の近海マグロ類の水揚げ量を誇る。本マグロすなわちクロマグロはそれほどでもないようながら、メバチ、キハダ、ビンナガといった種類なら、鮮魚店でなくともスーパーにすら近海産が普通に店頭に並んでいる。
沖縄と美味しいマグロは無縁である、と長い間思い込んでいた私がその事実を知ったのは実はここ最近のことで、以来沖縄でのマグロの旬といわれる5、6月になると、必ず鮮魚店でマグロを購入している。
クロマグロではなくともなにせ獲れ獲れピチピチだから美味しいし、フトコロに優しい価格がまた素晴らしい。
そこでふと疑問に思うことがひとつ。
近海産マグロの水揚げ量全国屈指を誇る沖縄県、しかも家庭でのツナ缶消費も全国有数とくれば、沖縄ブランドのツナ缶のひとつやふたつあってもよさそうなところだ。
実際、かつて県内水産高校の生徒たちが授業の一環で作ったというツナ缶をいただいたら、それだけでメインを張れるぐらい美味しかった。
ところが昔も今も、スーパーに並んでいるのは全国区のメーカーのものばかり。
その昔ソロモン諸島国に旅したときに食べたソロモンツナ(缶詰)もまた、今でも旅の思い出のひとつになっているほどにとても美味しかったことを思えば、
「やっぱりツナ缶は沖縄県産じゃなきゃだめだよね」
と観光客に言ってもらえるほどの沖縄ブランドがあってもいいと思うのである。
価格的には大手と競合はできなくとも、本当に美味しければ、きっとブランドを確立できることだろう。
そうすれば数々のチャンプルーも、度肝を抜かれるツナ入りお味噌汁も、観光客の皆さんにとってよりいっそうの旅の思い出になるに違いない。