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ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

160回.大病記(下)

月刊アクアネット2016年9月号

 おそらく離島の医療事情という話で一般の方が真っ先に思い浮かべるのは、急病になった際にどうしたらいいの?ということだろう。

 たしかに救急車を呼ぶこともすぐさま自力で病院に行くこともできない環境だと、急病の対処は大変だ。

 けれどとにもかくにも一度で済む救急搬送と比べれば、通院が必要になった場合のほうがよほど厄介だったりする。

 ドキドキしながら迎えたクリスマス。

 検査結果を伺いにはるばる中南部の病院まで行くと、幸いにもリンパ節をはじめとする他の部位への転移は見つからなかったと告げられた。

 転移があった場合のその後のことを考えれば、その知らせは何にも勝るクリスマスプレゼント。

 サンタさんのおかげで、手術のための入院は予定通り1月半ばからとなった。

 天気予報的に当日の連絡船の欠航が危ぶまれると、その前日、前々日から島を出なければならないところ、サンタさんに続いて今年の1月前半は神様に祝福されたかのようにポカポカ陽気の連続で、海も真冬とは思えぬ穏やかな状態が続き、何の支障もなく当日島を出て、その日の午後には入院とあいなった。

 翌朝の手術は長時間に及んだもののおかげさまで何のトラブルも無く終了し、その後入院している間もいいお天気続き。

 見舞いのために島と病院を一日おきに行き来しているだんなも、欠航の憂いがまったくなかった。

 ところが。

 予定どおり10日後に退院となったのはいいのだけれど、よりによって沖縄に雪を降らせるほどの、観測史上稀に見る強烈な寒波が襲来。

 台風もかくやという荒れ模様が続いたために連絡船の欠航は長引き、ようやく島に帰り着いたのは、なんと退院してから3日後のことだった。

 こんなことならあと3日入院していたほうが、本島で外泊するよりは遥かに快適で健康的で安上がりだったような気が…。

 そしてようやく自宅にたどり着いたと思ったら、翌日はもともと予定されていた術後検診のためにまた病院へ。

 その後も1週間後、2週間後、1ヵ月後と術後検診があり、そのたびごとに連絡船の欠航があれば本島泊を余儀なくされる始末である。

 そんな苦労をしつつはるばる本島中部の病院まで往復4時間かけて通院しても、なまじ術後の経過が良すぎるがために、たった10分の診察で終了、なんてこともしばしばだった。

 かように離島からだと病院通いもままならないし、本島での前日泊、後日泊が必要になればその都度余計な費用が必要になる。

 これが長期通院となると大変な負担になるのは当たり前で、高齢化社会まっしぐらの現在、医療事情がよろしくない離島からの人口減少率が高いのもわかる気がした。

 最速スケジュールで手術できたおかげで、4月から始まるダイビングシーズンには、海も酒も万全(?)の体調で臨むことができた私ではあるけれど、最終的な病理検査の結果、少なくとも1年は転移・再発予防治療のために定期的な通院が必要で、慌ただしいシーズン中の数少ないお休みの日が、カナシイかな通院日になってしまっている今夏である。

 昨夏からのこの1年、無医地域の不便さを身をもってたっぷり経験したことで、離島よりも都会に住んだほうがいいと思うようになった…

 …かというと、それはまったくない。

 結局のところ私の場合、水納島には、そういったマイナス面を軽く上回る素敵な暮らしがあるのだ、ということを再認識した1年でもあったのだった。