●海と島の雑貨屋さん●

ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

165回.島ぞうり

月刊アクアネット2017年2月号

 沖縄県外にお住いの多くの方々は、「沖縄は常夏」というイメージを抱いている。

 冬でも緑はあふれ花は咲き、青い海に白い砂が輝く海では、真冬でも海水浴が出来ちゃうとさえ思われているのだ。

 けれど実際の沖縄の冬はしっかり冬で、寒すぎて冷たすぎて、修行僧でもないかぎりとてもじゃないけれど海水浴なんてできない。

 かくいう私も琉球大学の受験のために初来沖した際は(もう31年前…)、春3月というのにどんより曇った鉛色の空に強い北風がとても寒々しく、“こんなはずじゃなかったのに…”と絶望しかけたものだった。

 もっともそれは、試験の手応えが今一歩でブルーになっていたせいもあるかもしれないけれど…。

 一方で、例年に比べ異常に暑かった今年の正月のように、冬だというのに日中Tシャツ短パンで過ごせる日もたしかにある。

 運良くそういう日に当たった観光客にとってはまさに常夏のイメージにピッタリ。

 ただしそれをあてにして次回も冬にお越しになると、とんでもない目に遭うかもしれないからご注意を。

 そういう話をすると、どんなに冷え込んでも沖縄では最低気温が10度をきることは滅多にないんだから、やっぱり冬も暖かいじゃないか、とおっしゃる方もいるのだけれど、寒くても暖房をしっかり効かせるわけではなく、厚着をする習慣もない沖縄では、最低気温が10度くらいにまで下がっていると、家の中でも外でも体感気温は相当低くなるのだ。

 酔っ払って路上で寝てしまったら、下手をすると凍死してもおかしくないのである。

 それほど寒いものだから、冬場の私は極寒地仕様の登山用インナーを身に着け、分厚い靴下を2枚重ねで履き、屋外に出る時には風を通さない系の上着やズボンを着込んで万全の対策をとっている。

 ところが、そこまで私が寒さ対策をしている同じ日に、「冷えるねぇ!」と寒そうにしつつ歩いていた島のご婦人お2人の足元は、どちらも素足に島ぞうりなのだった。

 島ぞうり(島草履)というのは市販されているビニール製の最安ビーチサンダルのことで、島内で過ごすカジュアルライフには欠かせない履物である。

 入学式や卒業式といった学校イベントにはフォーマルウェアで臨みはするものの、その足元は島ぞうり…ということもよくある。

 しかしだからといって、この寒空の下で履くものではないような気が……。

 なので「寒くないんですか?」と尋ねると、寒いことは寒いけど、靴下を履くと足元が鬱陶しくなるからなるべくなら履きたくない…のだそうな。

 その他、寒風吹きすさぶ桟橋にTシャツ短パンで連絡船を迎えに来ているヒトがいるかと思えば、上着はけっこうな防寒着にもかかわらず、下は半ズボンに素足というヒトもいる。

 単に厚着が苦手なだけなのか、それとも寒さへの耐性が高いのか…。

 ともかく、見ているだけでこちらが寒くなりそうな薄着なのに、島の方々はさほど寒がっている様子がない。

 毎年のことながら冷え込んだ日に薄着でいる島の人を見ると、沖縄が常夏だと信じているのは、ひょっとすると観光客だけじゃないのかも……と思ったりもするのだった。