●海と島の雑貨屋さん●

ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

213回.フーチバー

月刊アクアネット2021年2月号

 埼玉の田舎で暮らしていた子供の頃は、春になると近くを流れる入間川の土手で野草を採集するのが恒例だった。

 もちろんノビル、ツクシ、ヨモギといった「食材」が目的だ。

 なかでもヨモギは新芽の若いものを選び取り、軽く茹でてからたたいて細かくし、それを混ぜ込んだ餅の皮を作って草餅にするという手の込んだことをしていた。

 そうやって出来上がった草餅は、市販されているものに比べてヨモギの香りが格段に強く、子供心にもたいそう美味しかった。  

 そんなヨモギが水納島にもごくごく普通に生えていることを、島に引っ越してきてすぐに知った。

 冬でも雑草が枯れない沖縄だから沿道のそこかしこに通年生えているということもさりながら、島の方々がちょくちょく食材として利用する料理を、越してきた当初から目にする機会が多かったからでもある。

 ただし食材といっても草餅にするというようなものではなく、ヤギ汁やイカの墨汁、アバサー汁など、ややクセのある香りがたつ汁物に匂い消し的な薬味として投入したり、味噌汁のアクセント的にトッピングに使うことが多く、野辺から採集してきて洗って出せば準備完了といういたってシンプルなものだ。

 沖縄でフーチバーと言われているヨモギは正確にはニシヨモギといい、本土のザ・ヨモギに比べ香りが幾分マイルドということもあり、「それは春菊ですか?」と思わず訊きたくなるくらい大量のフーチバーをどっさり汁物に載せる人もいる。

 また、ちょっとしたアクセントになるようジューシー(雑炊)の具に使うこともあるのだけれど、フーチバーが大好きな人がそれを作ると大量に入れ過ぎ、ヨモギの味しかしないジューシーになることもある。

 利用方法は様々ながら、ヤギ料理の店に必須なのはもちろん、沖縄そばでも店によっては「フーチバーそば」なるものがあるくらいだから、フーチバーは沖縄では知名度も利用度もかなり高い山野草といえる。

 とはいえ地域によってはずいぶん都市化が進んでしまった現在の沖縄では、自宅周辺に草地が無かったり、あっても除草剤塗れでとてもじゃないけど使用できない…といった住環境も増え、自然のフーチバーはなかなか手に入れにくくなっているということもあるからだろう、スーパーでは栽培されたフーチバーが売られている。   

 フーチバーには薬効があると昔から言われていて、水納島でもおばあたちがよく煎じて飲んでいた。

 民間療法的なその薬効が薬事法上どういう扱いなのか詳しくは知らないものの、実際に本土のザ・ヨモギはお灸のもぐさの原料になっているわけだし、お灸ともぐさの組み合わせによる効能は医学的にエビデンスがあるそうだから、フーチバーもきっと体にいいのだろう。

 そういう意味でもフーチバーことニシヨモギも、本当に薬効あらたかな「おきなわんハーブ」といっていい。

  おばあたちの多くがお星さまになってしまった現在の水納島では、頻繁にフーチバーを採集するヒトがいなくなっているため、新鮮な完全無農薬無除草剤排ガスほぼゼロフーチバーが島じゅうで採り放題になっている。

 もっとも、私が借りている畑の際でさえ、栽培していると勘違いされそうなほどに茂り放題で、地下茎でどんどん増えるフーチバーは、むしろ畑にとってものすごく厄介な雑草でしかない。

 ある意味宝の持ち腐れかもしれない?