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ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

233回.「あたいぐぁ」造成計画

月刊アクアネット2022年10月号

 気がつけば四半世紀を越えた私の家庭菜園歴のなかで最も長く利用しているのは、集落から少し離れたところにある30坪くらいの畑で、もうかれこれ20年近く使わせてもらっていた。

 6年ほど前からその30坪くらいの畑に加え、より我が家に近いところにある200坪ほどの畑も使わせてもらえるようになって、以来少しずつ耕し、最終的には100坪超ほどを畑にすることができ、家庭菜園として使わせてもらっていたものだ。

 もはやそこまで広くなると労力的に「家庭菜園」の範疇を越えている気がしなくもないものの、いろいろ大変でも楽しいことだからまったく苦ではない。

 ところがそれらの畑が、諸事情あって今年度から使えなくなってしまった。

 いくら冬場はヒマとはいえ、冷静に考えると本業その他にかなりのしわ寄せがきていたこともたしかだから、残念に思う一方で、暴走気味の畑仕事に歯止めがかかってホッとしたという部分もあったりはする。けれど自家製の水納島の美味しい無農薬野菜を思う存分堪能できなくなるとあっては、水納島生活における大きな楽しみを喪失してしまうという感は否めない。

 諸物価が高騰し、さらには食糧危機が迫る昨今のこと、これまでに培ったスキルがこれからいいよ役に立つ…というときに、まったく野菜を作れなくなるというのはあまりにも残念すぎる。

 そこで考えついたのが、庭の一部を整理して「あたいぐぁ」(沖縄方言で敷地内にある家庭菜園のこと)にする計画だ。

 「表あたい」作庭中の筆者。もともと芝生だったから雑草は大したことはないものの、まだ土が出来上がってないため完璧とはいかない。それでもズッキーニやオクラなど、1年目の畑にしてはまずまずの品質&収穫量で、『裏あたい』ではモーウィやゴボウも採れ、家庭菜園の役目をしっかり果たしてくれている。

 現在の我が家の敷地は80坪ほどながら、居住スペースはいろいろひっくるめてそのうちの半分くらいで、あとはカメさんたちの飼育スペースだったり芝生にしていたりするだけ。本来の意味での家庭菜園規模なら余裕で設えることができるくらいのスペースがある。

 思い立ったが吉日、善は急げとばかりに、春からさっそく庭の大改造を始めたところ、夏野菜の準備に間に合う頃には、表側の庭と裏のちょっとしたバックヤードに、合計10坪ほどのあたいぐゎを作ることができた。

 それぞれを「表あたい」「裏あたい」と名付け、日当たりが良く人目もある表あたいにはパッと見存在感があるズッキーニや大好物のオクラ(沖縄の丸オクラ)、それに沖縄の夏野菜の定番でもあるゴーヤーを植えた。一方裏あたいは陽当たりがよくないので、地味にニラやネギ、それにミョウガなど、長持ちしてちょっとあると重宝するものを。併せて裏庭の石畳風アプローチを場所からすべて作り直し、その脇にニラを植えたら、裏側のアプローチは「ニラの小径」になった。

 そうやって天気が許すかぎり毎日スコップやのこぎりを手に庭仕事をしていると、従来の畑と違って集落内だから人目にもつきやすい。なので島のみなさんは「また正恵が変なことをしている」という顔をしつつ、通りかかるたびに興味深げに「何やっているの?」と声をかけてくるのだけど、「あたいぐゎを作ってる」というと、事情をご存知だけにすぐに納得顔に。

 小さな島のことゆえ噂はすぐに広まるから、春のひところの我が家の庭は、みんなが見に来るホットスポットになっていた。

 昨年までだったら秋を迎えた途端に畑の準備にかけていた労力と時間を、今年からすべて庭造りその他家のことに使えるようになる。考えようによってはいいタイミングでの方向転換ともいえそうで、ある意味「禍転じて福となす」ことができる…かもしれない?