●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2024年10月号
本土では店頭からコメが姿を消し、値段も高騰しているという。
けれどそんな「令和の米騒動」のニュースが流れ始めても、沖縄に住んでいる私には身に迫った危機感はまったくなかった。スーパーに行けば、いつもと変わらず各ブランド米から県産米までズラリと並んでいるからだ。
それが9月に入ると、ちょくちょく訪れるJAマーケットの県産米売り場に、現在品薄状態のため商品を置くことができない旨を知らせる貼り紙が。ついに沖縄にも米騒動が来てしまったのだろうか。
40年近く前、琉球大学に入学して初めて学食でランチを食べたとき、あまりにもコメがまずくて驚いたものだった。
古古米が流通しているのか、そもそも沖縄でできるコメの種類が違うのか、とにかく臭くてボソボソしていた。それはどうやら学食だけの話ではないらしいことがわかり、生来のコメ好きである私は実家に沖縄のコメのまずさを訴え、実家から何かを送ってもらうときにはついでにコメもリクエストしていたほど。
その後時は流れ、県産米のレベルも格段に上がって大変美味しくいただけるようになったほか、今では日本各地のブランド米も沖縄まで流通しているから、まさに隔世の感これありってところだ。
今では本島地方でも数少なくなっている水田風景。本土であれば6月くらいの情景かもしれないけれど、これは9月初めに名護の羽地で撮ったもの。亜熱帯の沖縄ではコメは二期作なのだ。ちなみにこれからひと月半ほど経った10月半ばには↓こうなっていた。
二期作のおかげで新米が出回る時期が年に2回あり、新米の季節になると、必ずJAマーケットで購入するようにしている私である。今育っている稲が実りの季節を迎えるころには、きっと観光客の数も落ちついているだろうから、また新米を楽しめることだろう。
そんなおりの令和の米騒動、そもそもなぜ沖縄では米騒動初期にコメ不足が起こらなかったのかというと、沖縄のお中元事情が関係しているらしい。
沖縄のお中元は基本的に旧盆に合わせて送るか直接手渡すかというのが習わしで、本土のお中元時期よりもずっと後になる旧盆時期、そのお中元の最重要商品がコメなのだ。
水納島に越してきたばかりの頃、お盆(旧盆)のために島に帰省してくる親族の方々が、みなみなコメ(たいてい3㎏で、贈答用の化粧箱に入っている)をたくさん持ってきているのが新鮮だった。
そのコメが実家への挨拶代わりの手土産、すなわちお中元ということになるのだけれど、親族の方々は当然連絡船を利用するから、各親族が乗り合わせる便ともなると、かなりの数のコメが連絡船のデッキにうずたかく積まれることになる。
それが私にとってこの時期の当たり前の光景になった頃、本部町内に大型チェーン店のスーパーが複数できた。
すると旧盆6時期の各スーパーにはお中元コーナーが出現し、化粧箱入りのコメがズラリと並び、レジではその贈答用のコメを20箱ほども爆買いしている人も見かけるようになり、これまた今ではすっかり見慣れた光景になっている。
沖縄のスーパーではそれほど旧盆時期に合わせてコメを確保しなければならないわけで、その他お中元に限らず返礼やお祝いなどコメそのものやお米券を配るのもスタンダードな沖縄だから、小売店は普段から常に相当量のコメを確保しているのである。そのおかげで沖縄県は令和の米騒動とは無縁でいられたのだ。
ところが最近、沖縄旅行に来た観光客が自分用もしくは米不足に悩む親族や友人にと、県内のスーパーでコメを購入して本土に発送するケースが続出するようになり、とうとう店頭のコメが品薄になり始めているという。
米不足で大変なのはわかるけれど、沖縄観光に来て5㎏10㎏のコメをたくさん買い込んでいく方々は、お隣の大陸からの訪日客が薬やコスメ商品をたくさん買い込んでいくというニュースをご覧になった当時、どう思っておられたんだろう…ということがとても気になる今日この頃なのだった。