●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2008年8月号
たびたびこの稿で触れてきた島の共同作業、みんなが忙しくなる海水浴シーズンに入ると、そのての作業は減るものと思われているかもしれない。
ところがどっこい、海水浴シーズンは台風シーズン。強風域程度の風で空が晴れ渡っていたりすると、たちまち共同作業が始まることもある。
連絡船避難中は船員さんたちが不在だけど、くたびれた船員さんたちがいなくとも、ピチピチのビーチスタッフたちがいるから戦力は揃っているのだ。
台風中に行う作業といえば、ビーチの清掃作業であったり、道を覆い隠している沿道の雑草刈りであったり、御願所の掃除、道や下水の掃除など、主に清掃作業であることが多い。
そんなとき、婦人部のメンバーがたいてい手にしているものが、草刈鎌、竹ぼうき、一輪車だ。
私はこれを、水納島共同作業におけるおばあの三種の神器と勝手に命名した。
台風後の後片付けなどのように大がかりな場合以外は、この清掃作業はもっぱら婦人部の仕事だ。
草刈鎌で伸びすぎた葉を一枚づつ丁寧に刈り、枯れた葉を取り除き、根元を竹箒で掃いていく。
初めてこの作業に参加したときは、そもそも段取りが分からないうえに誰も教えてはくれないので、私が用意したのは軍手とチリトリぐらい。
もちろん私はほとんど戦力にならなかったけれど、見る見るうちに道がきれいになっていくおばあたちの作業の早さに目を見張ったものだった。
私もおばあの三種の神器を買い揃えなければならない、と決心するのに1年とかからなかった。
おばあの三種の神器を揃えた私がまずはじめにやったのは、竹箒係。
簡単に見えるただの掃き掃除、ところが普段掃除機で吸い込むだけの掃除になれた体には、これが思いのほか大変だった。
コツが分からないものだからやたらと疲れるし、手にはマメまでできる始末。そのうえ力が入りすぎているらしく、やたらと箒の先が減ってしまった。
お次は、一輪車で刈った葉を片付けるという若手の力が必要な作業を担当したのだけれど、一輪車が思いどおりに操れず、せっかく乗せた山盛りの葉を、全部ぶちまけたこともあった。
おばあが使っているときには簡単そうに見えるのに、彼女たちはのんびりだけれど実に巧みに操作しているのだ。
さらに難易度が高いのが鎌で葉を刈る作業。コツが分からないこともあってやたらと体力が必要だった。
なのにおばあがやっているのを見ていると実に優雅かつリズミカルで、舞踊のようにさえ見えるほどだ。
手馴れているから動きに無駄がないのはもちろんだけど、おばあの鎌を見せてもらってさらに驚いた。思わずサビだらけの自分の鎌を隠したくなってしまうほど、ピカピカに手入れされていたのだ。
庭や家の前の道を掃除するに際し、おばあたちは日常的に竹ぼうきを使っている。
畑の回りの草を刈ったり、野菜の収穫をする際には鎌を使い、畑の収穫物を運んだり、潮干狩りで捕った貝の殻を水納貝塚に運ぶ際には一輪車を使う。
それに必要なものはおばあの労力だけだ。実は水納島のおばあたちは、ものすごくエコな生活をしていたのである。
さすがに今では私もおばあの三種の神器をある程度使いこなせるようになった。
最近では逆に、あまり畑仕事をやらない島のご婦人に「正恵さんは鎌の使い方がうまいねえ」と言われるくらいだ。
目指すは「三種の神器を使いこなすエコおばあ」なのである。