●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2010年3月号
皆さんは「港」という言葉からどんな風景を思い浮かべるだろうか。
たくさんの漁船が舫ってある漁港、コンテナがところ狭しと並んでいる商業港、立派なターミナルビルに観光客が大勢集まるフェリー桟橋……。
港にはいろいろあるけれど、水納島の港は、「港」というのがおこがましいほどにシンプルだ。沖縄各地の離島をまわったことがある方が水納島の港だけを見れば、とても有人離島とは思えないだろう。
市販の地図上には「水納港」と書かれてはいるものの、関係当局の図面的には「荷揚げ場」というものだそうで、「桟橋」と呼ぶのがちょうどいい。
ホントに、ほんの少し浚渫した区画に砂浜から突然ピョコッとL字型のコンクリート構造物が突き出ているだけ。
島にお越しになるお客さんたちがまずはじめに目にする水納島の風景は、連絡船から降り立ってすぐに目の前に広がる砂浜だ。
もともときれいな海にポコッと桟橋があるだけだから、当然ながら桟橋から見下ろす海はどこの港よりもきれいだと思う。
島民の大半が観光業を生業にしている水納島である。素朴な桟橋のみという風景は、観光資源としてとても大事なことではある。
ただ、港湾施設であれば普通にあるはずの大なり小なりの防波堤がキチンと整備されていないので、剥き出しになっている桟橋は海況の影響をモロに受ける。
たとえ航行に支障がない程度の時化でも、桟橋への接岸離岸が不可能になるため、台風ではなくともちょっとした風浪であっけなく欠航してしまうのだ。
お客さんのための景観維持も、肝心のお客さんが来られなければ本末転倒だ。
桟橋すらなかったその昔は、満潮時を見計らってリーフを乗り越え、砂浜に乗り上げ、乗船客ははしごを使って乗り降りしていたというから、それを思えば桟橋一本でもものすごく便利になってはいる。
しかし現在たった4、50人の島とはいえ、シーズン中ともなれば1日の欠航が影響を及ぼす人数は島民人口の比ではない。
景観を気にかけつつも、もう少し連絡船の運航を考慮した港にしていく必要があるのは言うを俟たない。
そうして景観と効率の両者を天秤にかけた結果が、現在の港の姿……
…であればいいのだけれど、どういうわけか連絡船の運航とは関係がない立派な待合所ができたかと思えば、桟橋設置のせいでバランスが崩れた砂浜維持のために突堤や防波堤、潜堤を造ったりして、景観を損ねるものをさんざん造ったわりには、連絡船の運航状況改善にはまったく役に立っていない(ちなみに、砂浜維持にも悪影響しか与えていない)。
立派な待合所にしても、本来は県による港湾施設改修計画に付随した計画だったものが、港湾施設改修は無期限先延ばしにしておきながら、待合所だけ造っているのである。
蓮舫なら即座にまなじり吊り上げたに違いないまったくの無駄な投資といえよう。
いっそのこと、港湾施設を波が入ってこない島の裏側に造ってしまえばいいのだ。
そして、現在の桟橋ならびに防波堤、突堤などは全面的に撤去。
そうすれば、連絡船の運航状況は見違えるほどに改善され、砂浜は自然に維持される。
お客さんにとっては、連絡船から降りて5分ほどトコトコと島内を歩いた先に、突如広がる真っ白な天然のビーチ…。
現在の状況を見ればまるで夢物語だけれど、今までかけてきた無駄な投資の金額があれば、余裕で実現できた話であることだけは間違いない。