●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2004年2月号
最近は日本全国ペットブーム。
ここ水納島でもやはり犬や猫を飼っている家が数件ある。
たとえまわりを自然に囲まれていても、身近に動物をおいておきたくなるものなのだ。
もっとも水納島の場合、猫は家と外を自由に行き来できるし、犬は道を自由に駆け回っている。
お客さんに「あれはミンナヤマイヌです」と言ったら、たまに本気にする人もいる。
他人の飼い猫が自分の家の屋根に登ることすら許さない最近の都会の事情とは大違いだ。
かくいう私も実は筋金入りのペット大好き人間である。
小学生のころからお小遣いをためては小鳥を何羽も飼ってみたり、カメレオンが売られていたので大喜びで買ってきたら実はただのキノボリトカゲだったり、そのテの話題には事欠かない。
そんな子供がオトナになって下手に経済力を得ると、歯止めをかけるモノがなくなるから大変だ。
おかげで現在は隣近所が遠いのをいいことに、タイハクオオム、アオボウシインコ、チャボ数羽、アヒル10羽程度、ホシガメ数匹を飼っている。
放し飼いにもできるし、臭いや鳴き声も他人に気を使わなくていいので、ペットを飼う人間にとっては天国のような環境だ。
水納島に移住してしばらくの頃は、ペットを飼うどころか自分たちの食い扶持すらままならなかった。
それを思えば現状は「よくもまぁ…」と我ながらあきれるほどなんだけど、もとはといえば、夢に描いていた「庭に放し飼いになっているニワトリ」を実現しようと、カツラチャボを数羽飼い始めたのが始まりだった。
ペットであるとともに、糞は肥料に、卵は食用に、一石二鳥になると考えたからだ。
昔と違い、県内でチャボを入手するのはかなり難しかったものの、ようやく手に入れて庭の鳥小屋に入れると、まずハヤブサのような鳥(ツミ)がやってきた。
まだ若雛だったので彼らにとっては格好の獲物なのだろう。
ツミの次にやってきたのは島の人々である。
新たにやってきた動物がもの珍しかったのだろう、何かのついでに立ち寄ってはチャボを見ていく。
そしてめいめいが、
「小さいからダシしか出ない」
「いつ食べる?」
「名古屋コーチンのほうが美味しい」
と口々にのたまう。
そのたびに、これはペットであって食べるつもりはない、と説明しては不思議がられた。
わざわざ手間ヒマかけて育ててなぜ食べないのか、理解不能だったらしい。
このときばかりは、チャボの外敵はハブでもカラスでも猛禽類でもなく、鳥といえば食うものと信じるみんなの胃袋だったかも、と恐怖を感じたものだ。
その後、私に付いてまわったり、柵があるわけでもないのに我が家の庭から逃げ出さず、夜は夜で私が何もしなくても小屋に帰ったりする鳥たちの様子ををみんなが知るにおよび、ようやく
「鳥も立派なペットになりうる」
という理解が得られつつある。
私が鳥たちに話し掛けている姿はいまだに理解の範囲を超えるらしいが……。
まだ水納島に来て間もないころ、悪さを働いた飼い犬を叱っているおばあの言葉を聞き、変わった叱り方だなあ、と思った。
最近私もマネして、チャボやオウムをしかるときに冗談でそう言うこともある。
「そんなことすると食べちゃうよ!」
知らない人が聞いたらビックリするだろうなぁ。
おばあが言っていたのは、昔の沖縄では貴重な蛋白源として犬を食べるのが珍しくなかったことによる。
私の場合は、もともと家畜として飼っているアヒルには、もちろん本気で言っているんだけどね。